菊池 私が荻上さんの『宗教2世』を読んで感じたのは、私自身が当事者、つまり創価学会の宗教2世なので、このような調査を行うことは荻上さんのような第三者でないととてもできないな、ということでした。安倍晋三元首相銃撃事件の直後は自分を含めて、宗教2世たちのトラウマがバーッと噴き出してしまうのではないかと、不安を覚えました。実際に心のバランスを崩してしまった方の話も聞いていたので、「つらい人はニュースから離れよう」と声がけしていました。なので、あの時期に、突っ込んだ質問を宗教2世たちに投げかけることは私にはできなかった。それを荻上さんがやってくださったのはとてもありがたかったです。この本を読んで、初めて知った意見もたくさんあります。
――銃撃事件をきっかけに宗教2世の問題が表面化したわけですが、この問題の本質はどこにあるのでしょうか? 世界に目を向ければ、親の信仰を子どもが受け継ぐのはごく自然なことで、厳しい修行や戒律があったとしても、それが問題化しているという話を聞いたことがありません。
菊池 そのとおりです。世界にはイスラム教徒やキリスト教徒、仏教徒などが国民の大多数を占める国がたくさんあります。でも、日本における宗教2世は、自分だけが周囲とは違う宗教のルールにしばられて生活している。なので、正確を期すならば「日本における宗教2世問題」であると、以前から思っていました。
荻上 日本では、初詣をし、クリスマスを祝い、墓参りをするといった、さまざまな宗教に分散的に関わる人が多くいますが、マイノリティーである特定の宗教の教義を信じていると、マジョリティーとの衝突、葛藤を経験することになります。その緊張は、社会と各宗教、双方との対話で改善されるべきですが、実際には子どもがコンフリクト(争い)の矢面に立たされがちなケースがいくつかありますね。今回の調査結果では、とりわけエホバの証人の信者の子どもは、学校行事への参加を断らねばならず、それを学校の先生や友だちに自分から説明しなければならないなど、親や信者集団の規範と、社会的なさまざまな規範とのギャップに直面させられる度合いが高くなります。