自分で道を決める勇気を持とう
もう一つ、私が共通言語としてよく強調しているのが、表情の豊かさです。日本、とりわけビジネスの現場では、あまり表情を出さないほうがいいとされた時代がありました。しかし、先に述べたように仕事がプロジェクト単位になったり、起業が一般的になったりすると、人として魅力的であるということがとても大事になってきます。
たとえば起業するとき、魅力的でない人のところにはお金も人も集まりません。あるいはプロジェクト単位で仕事をするときも、集められたチームの中で表情豊かに「自分らしさ」を出し、周囲にいい影響を与えるような人が優れたリーダーになりがちです(経営学では最近、「オーセンティック・リーダーシップ」という呼び方で注目されています)。
日本の人たちは真面目で優秀ですから、共通言語を持てる分野では強いのです。たとえば、野球やサッカーは世界中同じルールですから、グローバルで勝負をしていると、大谷翔平選手や久保建英選手のように世界でもトップクラスで活躍する人が出てくる。
学問でも私のいる文系では言語の壁で苦戦していますが、数学という共通言語のある理系では、ノーベル賞学者を今も出し続けていますよね。
イーロン・マスクのように「こういう世界をつくりたい」という大きなビジョンを持つ必要は必ずしもありません。大金持ちにならなくてもいいから、自分と価値観が合う人とのんびり生きていきたいという人もいるでしょう。
そういう人たち同士がゆるやかな組織をつくり、ブロックチェーン技術(※2)を使って好きなことをビジネス化できる可能性もあります。今から20年もたてば、起業のスタイルも相当に変わっているでしょう。
グローバルなビジネス環境で最低限必要な共通言語を身につけ、自分で道を決める勇気を持ち、好きなことをとことんやる。そうしていれば、世の中がどう変化しようと、きっと活躍できると思いますよ。
※1 メンバーシップ型雇用とは、終身雇用を前提として採用し、配置転換しながら経験を積ませる雇用方式。ジョブ型雇用とは、仕事の範囲や勤務地などを明確にすることでより専門性を高める雇用方式。
※2 ブロックチェーン技術とは、情報を記録するデータベース技術の一種。暗号資産の一つであるビットコインを実現するための技術として開発された経緯がある。
(構成=川口昌人 撮影=榊水麗)