コロナ禍による受診控えや健診の落ち込みも、肝胆膵内科に限って見れば、影響は限定的だった。
「膵がんに代表される肝胆膵領域のがんは、悪くなってから見つかるケースが多い。一部の例外を除けば健診や人間ドックで見つかるのはレアケースです」(奥坂医師)
■特に胃がんと大腸がんは進行して見つかる割合が増加
一方、外科の視点からコロナ禍を見るとどうなのだろう。名古屋市昭和区にある名古屋大学病院消化器外科一講師の上原圭医師は、直腸がんの再発例に対する手術(骨盤外科手術)で高い知名度を持つ消化器外科医。そんな上原医師によると、二つの「変化」があったという。
一つ目は健診から送られてくる患者が減ったことで、早期がんが減って進行がんが増えたことだ。
「局所がんが進行して腸の内腔が狭くなり腸閉塞になりかけているようなケースが増えました。こうなると早急に手術をする必要があります。また、肝臓や肺、腹膜などへの遠隔転移を起こしているステージ4の症例も、コロナ禍前にくらべると増えています。単に手術をすれば治るという状況ではなく、切除不能で抗がん剤治療に移行する、あるいは術前の化学療法や放射線治療が必要な症例も確実に増加傾向にあると思います」(上原医師)
■進行した症例の増加は、死亡率にも影響の恐れが
先述の「院内がん登録2021年全国集計 速報」では、登録されたがんがどのステージだったかを、がん別に集計している(下表)。18年から21年にかけての変化を見ると、特に胃がんと大腸がんでは、早期ステージで見つかるがんの割合が減り、進行したステージで見つかる割合が増えている。上原医師の発言を裏付けるデータといえそうだ。今後、この割合がどう変化していくのか、注視していく必要がある。
上原医師が感じた二つ目の変化として、従来は東京の有名病院に行っていた患者が地元名古屋で治療を受けたことで、患者数がわずかに増えたことが挙げられる。これは前出の国立がん研究センター中央病院の奥坂医師の発言とも合致する。
「日々の診療でも『進行した症例が増えた』という実感はあるし、仲間の消化器外科医と話していても皆が共通して持っている印象。それによって大腸がんの死亡率も上昇しているのかもしれませんが、これは先になってみないとわかりません。ただ、コロナが単に感染症を引き起こすだけでなく、『受診機会を奪う』という形で国民の命に影響を与えているのは間違いないと思います」(同)