がん研有明病院(東京都)は、週刊朝日ムック『手術数でわかる いい病院2023』の「子宮・卵巣がん」で手術数全国1位であり、他の病院では手術不能と言われた難症例が全国から集まる。同院で婦人科部長を務める金尾祐之医師は、腹腔鏡手術と再発がんの開拓者だ。患者や家族は「この医師なら」と命を託す。
本企画では、医療の「最前線」と「未来」を支えるトップ医師に、ターニングポイントと医療者としての自負、指導者としての展望などを聞いた。好評発売中の週刊朝日ムック『手術数でわかる いい病院2023』から一部抜粋してお届けする。
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子宮と卵巣は、生殖と女性ホルモンの分泌に必要な、女性特有の臓器。婦人科医として全国屈指の症例数を持つ金尾祐之医師(51歳)は、治療の難しさをこう話す。
「良性・悪性問わず、患者さんは治療によって機能が損なわれることの恐怖を強く感じやすく、機能を失った時の喪失感も非常に大きいです。デリケートな部位なので、大きな傷が残るのを心配する人もいます」
それゆえ、からだの負担が少なく傷が小さい腹腔鏡手術は、一部の婦人科疾患で一般的におこなわれるようになったが、それはまだこの10年ほどのこと。腹腔鏡手術が保険適用になったのは子宮体がんが2014年、子宮頸がんが18年で、それ以前は限られた病院だけが実施できる「先進医療」だった。
その先進医療のころからこの分野で多くの経験を積んでいた金尾医師は、子宮体がんが保険適用になった14年に、がん研有明病院婦人科医長としてスカウトされた。
「当時は腹腔鏡手術をほとんどおこなっていなかったので、そこから腹腔鏡手術の比率を高めるためにスタッフ態勢や育成をどんどん進めていきました」
この改革は実を結び、金尾医師は20年に部長に就任した。同院では現在、子宮体がんの6~7割、子宮頸がんの約4割を腹腔鏡で手術している。腹腔鏡手術の進化系である「ダビンチ(ロボット支援腹腔鏡手術)」も数多くおこない、他院で「手術できない」と断られるような難治症例や再発がんの手術も積極的に引き受ける。