そして今、情熱を傾けていることのひとつが後進育成だ。

「職人技を持つ医師でも、1人ができる手術数には限界があります。だから自分の技術を、できるだけ多くの後輩に伝えたい。『見て盗め』より教えたほうが、習得期間がぐんと短くなります。僕が10年かけて習得した技術を1年で身につけることだって可能です」

 そのため「手術の定型化」に取り組んでいる。金尾医師によると、「大半の手術は、手順ややること、注意点が決まっている。これまでは、それが言語化されていなかったので伝わりづらかった」とのこと。手術の定型化により、若手医師でも手術が再現できるようになれば、技術の伝承がスムーズになる。

■人間とテクノロジーの融合。新しい治療を開拓していく

 こういった思いもあり、医療機関の垣根を越えて、全国の若手医師に胸を貸す。地方でも勉強会を開き、12年から年に1度開催している合宿セミナーは、受講生が100人を超えた。

「精神的なことも教えています。患者さんと家族にとって手術は人生をかけた一大イベントです。若い先生たちには『その手術を自分の親にできるか』とよく言っています。医者の手は、患者さんにとって『神の手』です。自分の手にはその責務を担える価値があるのか省みること、そして鍛錬が欠かせません」

 今後の目標は「今のガイドラインでは、できないと考えられている治療法にチャレンジして、ブレークスルーすること」。再発がんに対する腹腔鏡手術も、そうして実現可能にした。

「始めた時には海外からも非難ごうごうでした。『そんなものに手を出したら患者さんが亡くなる』と。しかし、技術を確立して、エビデンスもきちんと示すことで認められ、国内でも徐々に認知されつつあります」

 先述した「手術の定型化」は、近年医療の現場でも成果を発揮し始めているAIなどのテクノロジーを見据えた取り組みでもある。それでも最後は医師の力が必要だという。

「最後に責任を負えるのは人間の医師だと常に思っています」

(取材・文/伊波達也)

本企画では、もう一人、低侵襲心臓手術の「先駆者」である順天堂大学順天堂医院の田端実医師にも取材をしています。併せてご覧ください。

本記事の全文、疾患別の詳しい治療法や医療機関の選び方、治療件数の多い医療機関のデータについては、好評発売中の週刊朝日ムック『手術数でわかる いい病院2023』に掲載しています。

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