スマホやタブレットを使っているとどうしても、子どもへの発達や健康への影響が心配になってしまいます。そこで子どもの発達障害の研究に長く携わる、お茶の水女子大学名誉教授で小児科医の榊原洋一先生にお話をうかがいました。好評発売中のアエラムック「AERA with Baby スマホに子守りさせてない?」からお届けします。
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ちょっと前だと「ノーテレビ運動」、最近だと「スマホ追放運動」などという情報を目にして、スマホ育児に罪悪感を持つお母さんも多いと聞きます。結論から言うと、スマホを利用すると子どもの健康や発達に悪影響があるというエビデンスは現時点ではありません。
話をスマホからテレビに移すとわかりやすいかもしれません。というのも、テレビの視聴の影響については世界中に何千という研究がありますが、ここにきてようやくデータが出揃ってきたという状況です。
登場から70年も経つテレビがそんな状況なのですから、スマホはまさにこれから。いま一部で叫ばれている「スマホ育児で悪影響」というのは、あくまでも臆測に過ぎないのです。
確かに初期のテレビは視力への影響が言われていました。でもそれは画素が悪く小さな画面を、部屋を暗くして見ていたから。今はテレビも大きくなり、きめ細かな画像で目も疲れにくい。メディア自身が変わってきています。
中国ではテレビを見る子より見ない子の方が、視力が悪いという報告もあります。中国の研究者に理由をたずねると「テレビを見る子は勉強が嫌いで、テレビを見ない子は本を読んだりして近くを見ているからだよ」と笑っていました。
医学では抗がん剤はどれが効く、肺炎ならこの薬が効くということがはっきりしています。ところが子育てになると、みなさんなぜか勝手なことを言うんですね(笑)。その理由は、本当かどうか白黒つけるのが難しいからです。
子育てというのは、親と子どもの両方を考えないといけません。ネット依存となると別ですが、エビデンスがないのに子どもの発達に悪影響がある「かもしれない」から親からスマホを取り上げるというのは本末転倒です。