「買収元の企業からやってきた、“20代のお姉ちゃん”は誰からも歓迎されませんでした。やりたいことはあるし、正しい自信もある。でも正論だけでは信頼してもらえないんです」
何度も否定されながら、諦めずに食らいつく。こうして少しずつ信頼を勝ち得ていった。
「女性だから否定されたと感じたことはありません。でも、人生で初めて、年を取って見えたらよかったのにと思ったのはこのときでした」
たとえ、“身の丈”以上であっても、打席に立つことで、スキルが積み上がると経験から知っている。失敗してもいい。どんなライフステージでもためらわず、やりたいことに飛び込める環境が必要だと考える。
「キャリアでも子育てでも、迷ったときはワクワクするほうを選べばいいと思っています。いつか、性別や若さのラベルが珍しいと思われない社会になればと思っています」
だが、女性が働き続けたい、社会で活躍し続けたいと思うとき、いまだに子育てとの両立に悩む人は多い。
子育てが足かせになり一歩踏み出せない、そんな悩みを解消したいと、子育てシェアサービスを運営する「AsMama(アズママ)」を09年に立ち上げたのが、甲田恵子さん(45)だ。原動力は、自身の感じた子育てジレンマだった。
保育園から娘が発熱したと連絡を受け、慌てて迎えに行くと、意外と娘は元気に走り回っていた。こんなときくらい、じっくり娘に向き合いたいはずなのに、「こんなんなら呼び出さなくたっていいのに」という理不尽な感情もよぎる。仕事を放り投げてきた自分はなんだったのかとイライラ。仕事も育児も完璧を求め、板挟みになっていた。
「ちょっと子どもを見てほしいと頼るのが苦手で、一人で抱え込んでしまいました」
甲田さんはそんな苦い経験から、顔見知りの親同士をつないで、子どもの送迎や託児を頼り合う仕組みを思いついた。
子育てシェアを利用するときは、依頼者が1時間あたり500円から700円のお礼を支払う。“ワンコイン程度”を挟むことで、依頼者はお願いしやすくなり、支援者も思わぬお礼に気をつかうこともなくなるという。
依頼者は働く女性が多い。ちょっと頼れたことで、育児がラクになり、仕事でも一歩踏み出せたという人もいる。支援者側も、子どもにきょうだいができたみたいでいい経験になったという人がいる。助け合いの循環ができたらと思う。
「気持ちに余裕が生まれれば、やりたいことに挑戦できるようになるんです。頼ることが申し訳ないではなく、カッコイイと思えるようにしたい」
甲田さんは多くの女性たちと接しながら思う。
「子育てをする女性の多くが減点式で自分を評価していると感じます。子育てを共有できる人がいれば、ほんの少しでも肩の荷を下ろすことができる。キャリアを積み上げてきた女性が立ち止まらなくていいような社会にしたいと思っています」
(編集部・福井しほ)
※AERA 2020年3月9日号