小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。『仕事と子育てが大変すぎてリアルに泣いているママたちへ!』(日経BP社)が発売中
小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。『仕事と子育てが大変すぎてリアルに泣いているママたちへ!』(日経BP社)が発売中
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リモートワークや在宅勤務、時差通勤でも新型肺炎の感染リスクは下げられる。企業の決断が問われている (c)朝日新聞社
リモートワークや在宅勤務、時差通勤でも新型肺炎の感染リスクは下げられる。企業の決断が問われている (c)朝日新聞社

 タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。

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 COVID-19(新型コロナウイルス)の流行で、リモートワークやテレワーク、時差通勤などに踏み切る企業が出てきました。従業員の感染リスクを減らし、市中感染の拡大を防ぐためにも必要な措置です。こうした決断を迅速に行うことで、企業の信頼度も高まります。すでにテレワークやリモートワークを取り入れており、社内の環境が整っているからこそ決断できるのでしょうが、非常時のみならず、今後は「働く=通勤」ではなくなっていくでしょう。一方で、熱があっても休むなとか、職場に来ること自体が仕事だとか、理屈に合わない慣習に縛られている職場も多いはずです。こういうときにトップがどのような言動をするのか、よく見ておくといいですね。根性論で乗り切ろうとするなら、遠からず淘汰(とうた)されるとみて、転職を考えた方がいいかもしれません。

 私も経験がありますが、日本ではなぜか病気になると怒られます。ウイルスや細菌は目に見えないのに、感染すると「体調管理が甘い」「たるんでいる」などと非難されるのです。幼い頃しょっちゅう扁桃腺(へんとうせん)をはらして熱を出していた私は、玄関先で母に叱咤され、栄養があるからと口にバターの塊を押し込まれて、フラフラで学校に行ったものです。そして結局、保健室で母の迎えを待つことになるのです。でも母を責めることはできません。彼女もきっとそうやって育てられたのでしょうから。

 なんでも精神論で語るあしき習慣は、ハラスメントの温床になるだけでなく、感染症のパンデミックのリスクを高め、社会全体、ひいては世界を危険に晒(さら)します。人は機械ではないので、病気になります。病んだ人をむち打つのではなく、安心して休める制度と誰が休んでも仕事が回る仕組みづくりを。労働者を人間として扱うことが当たり前の世の中になりますように。

AERA 2020年3月2日号