いまでは研究や捜査で無くてはならない重要技術である。米国のCDC(疾病コントロールセンター)はサイトにいちはやく、リアルタイムPCRに使用する遺伝子配列を複数パターン公表した。現在に検査はこの情報に準拠しているはずだ(ただし、ウイルス側の変異の速度も早いので、この点の注意も必要)。

 問題は、リアルタイムPCR法が鋭敏すぎることだ。

 ほんのわずかでもウイルスゲノムがあれば(理論的には一滴の鼻水サンプルの中に一個のウイルスがいれば)、それを陽性として検出しまう。なので、ある集団に対して(症状にかかわらず)網羅的に検査をすれば必ずやかなりの程度の陽性者が発見されることになる。しかし風邪の症状が出るのは、個人個人の免疫系とウイルス増殖とのせめぎあいのバランスによる。陽性でも、全く無症状の人、ウイルスを拡散する危険がほとんどない人も多数存在するだろう。ある意味で、我々ヒトは多数のウイルス、細菌とともに共存して生きている。

「木を見て森を見ず」のたとえではないが、検査でウイルスだけを追って人を見ないと、いたずらに社会不安を煽ったり、差別や分断のレッテル貼りにつながったりしてしまうおそれがある。

○福岡伸一(ふくおか・しんいち)/生物学者。青山学院大学教授、米国ロックフェラー大学客員教授。1959年東京都生まれ。京都大学卒。米国ハーバード大学医学部研究員、京都大学助教授を経て現職。著書『生物と無生物のあいだ』はサントリー学芸賞を受賞。『動的平衡』『ナチュラリスト―生命を愛でる人―』『フェルメール 隠された次元』、訳書『ドリトル先生航海記』ほか。

AERAオンライン限定

暮らしとモノ班 for promotion
「Amazonブラックフライデー」週末にみんなは何買った?売れ筋から効率よくイイモノをチェックしよう