現在はヤクルトの編成部アドバイザーとして働くトニー・バーネット氏(写真提供・菊田康彦)
現在はヤクルトの編成部アドバイザーとして働くトニー・バーネット氏(写真提供・菊田康彦)
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 プロ野球ファン、とりわけヤクルトのファンならよく覚えているだろう。ワイルドなヒゲに長い髪。闘志むき出しのピッチングで、2015年にはヤクルトの球団新記録となる41セーブをマークして、セ・リーグ優勝の原動力となったあの“助っ人”を──。

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「ヘイ、ヤス! 久しぶりだな」

 今年2月、沖縄・浦添で行われたヤクルトの春季キャンプ。メイングラウンドのANA BALL PARK浦添で筆者にそう声をかけてきたのは、かつては燕の絶対的な守護神だったトニー・バーネット(39歳)である。ただし、その風貌は当時とは大きく異なっていた。

「長髪もヒゲも野球のためにやっていたことさ。引退して普通の暮らしをしている今は、もう必要ないんだ」

 本気とも冗談ともつかぬ口調で笑うその顔には、日本で救援に転向してからたくわえるようになったヒゲも、「ゲン担ぎだ」と言って伸ばし始めた長髪も見当たらない。もともとスリムではあったが、現役時代よりもさらに細くなった印象もあり、かつては頻繁に言葉を交わした筆者も思わず二度見をしてしまったほどだ。

「もともと痩せっぽちなんだよ(笑)。だから現役の間は体重を増やすように努力していたんだ。力のあるボールを投げられるよう筋肉を増やすため、食事の量を増やして、トレーニングも重ねた。でも、もうその必要もないから、自然とこうなったんだよ。つまりこの姿は、僕が現役時代にいかに努力していたかという証拠だね。今は適度に食事をして、適度な運動をして、ストレスもない。体を大きくする必要もないんだ」

 バーネットはちょうど筆者がヤクルトの取材を始めた2010年に、先発投手として入団。2年目の2011年から救援に専念して、2015年には守護神としてチームをリーグ優勝に導いた。その年のオフ、来日前には上がったことのなかったメジャーリーグのマウンドを目指し、ヤクルトを退団。レンジャーズと契約を結ぶと、翌2016年4月5日のマリナーズ戦で、32歳148日にしてメジャーデビューを果たした。

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引退を決断したタイミングは?