中山富雄(なかやま・とみお)/大阪国際がんセンターを経て、2018年から国立がん研究センター「社会と健康研究センター」部長(写真:本人提供)
中山富雄(なかやま・とみお)/大阪国際がんセンターを経て、2018年から国立がん研究センター「社会と健康研究センター」部長(写真:本人提供)
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 がん検査の中でも「リキッドバイオプシー」は、1滴の血液で複数のがん罹患を判別できることから実用化への期待が高まる。だが、実用化を急ぐことはリスクもはらむという。AERA2020年2月10日号は、国立がん研究センター部長・中山富雄さんに聞いた。

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 新しいがん検査の研究が進むなか、リキッドバイオプシーのきちんとした検査性能を証明できていない段階で、即ビジネスにつなげようという動きがあり、危うい。

 最近話題になっている検査技術は、ほとんどが、がん患者の血液と、がんではない人の血液とを測る検査との2本立てを合体する手法で開発されています。それだと、100%に近い高めの数値が出やすい。あくまでも「仮の精度」にすぎません。現実の値はもっと下がるというのが科学者の常識です。

 それに対し、「リアルな精度」とは、数千人から1万人規模の母数の中から数人含まれるであろうがんの人をきちんと見分け、そうでない人を「がんじゃない」と判別できる割合なんです。その数字でもって、実際に使える検査か否かが判断できる。そこまで検証するには、5~10年近い歳月と、途方もない予算が必要です。

 それだったらと、「仮の精度」を錦の御旗に実用化を急ぎ、精度の低い検査が世に出回れば、どうなるか?「先生、CTやMRIでどこを撮っても異常がないのに……」と、精度の低い検査で「異常」だと判定された人が医療機関に殺到します。どこにもがんが見つからないまま、「医者にもわからない」「様子をみましょう」と言われ続ける。「自分はがんを抱えているかも」と思いながら、5年も10年も検査を受け続けることになれば、ひどい不安を招きかねません。

 陽性と出たら、追加でどこまでの検査が必要で、どこまでを必要としないか、といった「検査後」のエビデンスも欠かせません。基礎研究でよい結果が得られても、検査を実用化するまでには、どうしても時間はかかってしまうのです。

(ノンフィクションライター・古川雅子)

AERA 2020年2月10日号