前回「お子さまランチは豪華すぎる」という話をしたんですが、お子さま用のメニューにはもう一つ問いかけたいことがあります。君たち、「洋風」に傾きすぎではないか?と。日本には脈々と続く和食の文化があるのに、それが子どもに十分与えられていない気がするのです。
日本滞在中、家族4人で温泉旅館に泊まったときのことです。夕食が懐石料理だというのでわくわくしながら食事処のふすまを開けたところ、個室にどうにも不可解な香りが充満しています。上品なおだしの香りを覆い隠す、暴力的な香りです。それは子ども用の食事から漂っていました。大人用に美しく誂えられた先付けの横に、子ども用としてカレーとハンバーグが置いてあったのです。さらに翌朝、大人にはいかにも旅館の朝食といった趣の塩鮭、納豆、みそ汁が並べられる傍ら、子どもに用意されたのはコーンフレークとトーストでした。
それも「日本食」だといえば、そうなのかもしれません。カレーやハンバーグは日本で独自の発展を遂げた立派な「日本食」ですし、今や塩鮭と納豆の朝食をとる家庭は減り、コーンフレークのほうが主流なのでしょう。それにしても、大人には白ごはん、子どもにはコーンフレークというのは、あまりにも子どものことをわかっていない気がします。「どうせ子どもは和食なんて食べないから」と高を括っているのか、あるいは「お子さんは洋風のほうが喜ぶでしょう」というサービス心なのか、いずれにしても、子どもの力を低く見積もっているのではないでしょうか。子どもは和食をあげれば食べますし、大人顔負けの味覚を発揮することもままあります。
いや、でもうちの子は本当に和食を食べないんです、という声も聞こえてきそうです。食べないものより喜んで食べるものをあげたい、だからコーンフレークを用意してくれるお店の気遣いはありがたい、と。でも、お刺身や生卵などの生もの、アレルギー食品を除けば、本当に子どもが食べられないものなんて存在しないはずです。子どもは和の食材が苦手だというなら、洋の食材が入っていなかった数十年前の日本の子たちは何を食べて生きていたんだという話です。
子どもに和食を積極的に食べさせたほうがいい理由は、教育面、栄養面などさまざまな角度から考えられますが、ひとつ、いち在外邦人としてまことに実利的な理由を挙げるとすれば、こうなります。「和食は役に立つ」のです。