外国で暮らしていると、「和食を作ってくれ」とリクエストを受ける機会がたくさんあります。太巻き寿司を作れば拍手喝采、焼き鳥のタレをぐつぐつ煮込むだけで、まるで不老不死の薬を調合する魔法使いを見るかのような羨望と畏怖の眼差しを向けられます。アメリカでは昔、学校のお弁当におにぎりを持っていくと「なんだその黒い紙で包んだ玉は」などとクラスメートにイジメられることがあったそうなのですが、現代はそんなことはありません。「それ何?」と会話のきっかけになり、「私にもちょうだい」と羨ましがられることもあります。我々日本人には日常的な食のこぼれ話──たとえばごはんにお箸を突き立ててはいけない理由とか、恵方巻きの由来とか──などを披露すると、それだけで場が盛り上がります。和食を通じて、人との距離が縮まるのです。

 もともと食べ物には、人種や宗教を超えて人をつなぐ力があります。とりわけ和食は、嬉しいことにエキゾチックでヘルシーな好印象とともに世界中に広まっているので、交友関係を築くツールとしてもってこいなのです。和食といっても定義はさまざまですが、だいたい三世代をさかのぼって1955年ごろまでに常食されていたものを含めればいいという説があり、外国の人にも「和食といえばこんなもの」という概念があります。和食に慣れ親しんでいれば、将来外国の人を出迎えたり外国に出ていったりするとき、きっと役に立つ場面が訪れます。「子どもにグローバル教育を」というなら、英語より和食に親しませたほうがよっぽど効率がいいんじゃないかとすら思うのです。

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◯大井美紗子
おおい・みさこ/アメリカ在住ライター。1986年長野県生まれ。海外書き人クラブ会員。大阪大学文学部卒業後、出版社で育児書の編集者を務める。渡米を機に独立し、日経DUALやサライ.jp、ジュニアエラなどでアメリカの生活文化に関する記事を執筆している。2016年に第1子を日本で、19年に第2子をアメリカで出産。ツイッター:@misakohi

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