このアルバムは、ただのノスタルジーではない。「スカボロー・フェア」の歌詞に「パセリ、セージ、ローズマリー&タイム」というくだりがあるが、現在の京都・大原の自宅の庭でハーブなどの植物を育てる日々を意味するものでもある。「バラッド」を通じて目に浮かぶイギリス時代の記憶は、そのまま今の暮らしの光景につながっているのだ。決して昔を懐かしんで歌っているだけではない。

 実際、このアルバムにはベニシアの近所に暮らす元「渋さ知らズ」の横山ちひろがピアノとアレンジで、同じく京都出身京都在住のシンガー・ソングライター、元「くるり」の吉田省念がギターとチェロで参加している。京都での暮らしで知り合った仲間が、ベニシアの温かな人柄を伝えるべく、さりげないサポートしているのが嬉しい。

 このデビュー・アルバムは、ベニシア自身のパーソナルな思い出や充実した今の暮らしを、歌と言葉と生楽器による奥ゆかしい演奏で叙情的に捉えた作品だ。同時に、伝承歌の魅力を改めて伝えている。「バラッド」という音楽は個人の喜びや悲しみだけでなく、多くの人々の笑顔や涙にも寄り添う。時代も地域をも超えるのである。(文/岡村詩野)

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