アルバムに参加したメンバーたち。左から吉田省念、粕谷茂一、横山ちひろ、ベニシア・スタンリー・スミス(地底レコード/メタ カンパニー提供)
アルバムに参加したメンバーたち。左から吉田省念、粕谷茂一、横山ちひろ、ベニシア・スタンリー・スミス(地底レコード/メタ カンパニー提供)
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デビュー・アルバム「音楽という贈り物」(地底レコード/メタ カンパニー提供)
デビュー・アルバム「音楽という贈り物」(地底レコード/メタ カンパニー提供)

 ベニシア・スタンリー・スミス(70)という女性をご存じだろうか。イギリス出身ながら、京都の市街地から離れた大原という山間の町で、築100年もの古民家に暮らすハーブ研究家だ。自然に囲まれた暮らしの中から花や植物を育てたり、ハンドメイドのハーブティーや家庭料理を披露したり、ものづくりをする知人の仕事場を訪ね歩いたりする姿を、NHKEテレの冠番組「のしっぽ カエルの手~京都 大原 ベニシアの手づくり暮らし」を通じて見たことがある人もいるだろう。夫であるカメラマンの梶山正ら家族とともに穏やかに過ごす京都・大原でのライフスタイルを紹介する書籍も多い。

【ベニシアの京都・大原での暮らしぶりが伝わるジャケット写真はこちら】

 京都に根を下ろして約40年、関西訛りの日本語もすっかり流暢なベニシアが、ミュージシャンとして初めてのアルバム「音楽という贈り物」をリリースした。70歳のデビュー作品集に収められているのは5曲。ベニシアによるオリジナル曲は1曲でカヴァーが中心だが、単なる雰囲気ありきのアルバムとは違う。

 とりあげられているカヴァー曲は、ドノヴァンの「Colors」、カーペンターズの「Sing」、サイモン&ガーファンクルの歌声で知られるイギリス民謡の「スカボロー・フェア」。いずれもベニシアの飾らない歌が味わえる、素朴でフォーキーな仕上がりだ。決して歌い手として達者ではないものの、つらかったことも含め豊かな人生経験が刻まれた歌声には心を揺さぶられる。

 1950年ロンドン生まれのベニシアは、カーゾン侯爵(初代スカーズデール子爵)という英国貴族の血をひいている。名門校で学び、19歳でイギリスを離れて陸路インドへと向かった。そこから鹿児島へとたどり着き、京都に安住するまでの波乱万丈な半生は、これまで彼女の自著でも語られてきた。古い日本家屋を丁寧にメンテナンスしながらゆったりとした時間を過ごす日々は、都会であくせく働く者たちにとっての憧れでもあるだろう。だが、今回リリースされた「音楽という贈り物」で伝えられるのは、彼女自身の民族ルーツ=英国への情緒あふれる郷愁の思いだ。

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サイモン&ガーファンクルによるあの名曲のルーツは