舌鼓を打つ、のどを鳴らす、頬が落ちる──。「美味しい」を表す言葉がいくつもあるように、日本人は食べることが好きだ。だが、海外からの旅行客の急増で、東京の「食」に変化が現れている。AERA 2020年1月20日号では、インバウンドの影響を意外な形で受ける、日本の飲食店を追った。
【写真】1日売上たった5杯から、ミシュランの星を獲った感動のラーメンはこちら
* * *
かのミシュランが2007年に初めて日本に上陸して以降、東京は本国フランスのパリよりも星付きの飲食店が多い、世界最大の美食都市となった。食通やグルメ、フーディーと呼ばれる人々はこぞって星付きのレストランを目指す。こうした現象は「星詣で」と呼ばれ、今やそんな星付き飲食店の予約争奪戦は熾烈(しれつ)を極めている。
1カ月や2カ月待ちは当たり前。半年待ちもざらにある。最短で次の予約が3年後の23年になる中華料理店もあるという。こうした「予約困難店」の増加は、現在の東京の飲食シーンの最大の特徴と言える。
なかでも人気なのは「日本料理」と「鮨(すし)」だ。試しに大手グルメレビューサイト「食べログ」で東京の人気鮨店の上位20軒に、次回、予約できる日時を片っ端から聞いてみた。その結果、20軒中16軒がそもそも電話が繋がらない。残りの4軒のうち20年4月なら予約可能な店が2軒、次回の新規の予約開始日が2月以降という店が2軒だった。つまり、突然、キャンセルが出たなどの想定外のことがなければ、数日の間に席にありつくというのは、このクラスの飲食店では不可能なのだ。
電話がつながらない店はどのように予約を受け付けているのか。多くの飲食店が利用しているのが「予約代行サービス」だ。これは店の代わりにネット経由で利用客の予約を受け付けるサービスで、客は店ではなくサービスを手がける会社に食事代を支払う。この食事代には数パーセントの手数料が含まれている。
なぜ飲食店は手数料を払ってまで代行会社を利用するのだろうか。ミシュランの星を獲得した高級鮨店の主人に話を聞くと、悲鳴が聞こえてきた。
「朝から晩まで電話が鳴りっぱなしなんです。ただでさえ人手が少なくて困っているのに、若い子は電話とって一日が終わってしまう。もちろん、海外からの電話は当たり前で、英語圏ならまだしも、それ以外の言語になるとお手上げです」
と、語った上でより深刻な理由をこう続ける。