12月に行われたフィギュアスケートの全日本選手権で、宇野昌磨が羽生結弦に初勝利した。表彰式での宇野の姿は、これまでの苦悩を感じさせるものだった。AERA 2020年1月13日号の記事を紹介する。
【写真】美しすぎる!「氷艶」で高橋大輔と共演したステファン・ランビエル
* * *
全日本選手権男子の表彰式。「優勝、宇野昌磨さん」のアナウンスが響くと、思わず目頭を押さえた。
4度目の全日本王者。しかし今回は重みが違う。初めて羽生結弦に勝ったのだ。
会見では、珍しく次々と言葉が溢れた。質問への回答とは別に「どうしてもこれだけは言いたい」と付け加えて話す。
「羽生選手が出ていない中で3連覇して、正直、僕が日本一になったことに誰も気づいていなくて(笑)。僕も、日本一うまいのは羽生選手だと思っていました。僕のスケート人生で五輪よりも大きな目標が、羽生選手に一度でいいから勝ってみたいというほど、彼は大きな存在。スケートをやめずにやってきてよかったです」
これまで、苦しい2年だった。
「五輪で(銀メダルという)思った以上の結果を出したことで、自分へのプレッシャーを強くかけていました。去年(2018年)は羽生選手のように強くなりたいと思い、(結果を求めて)試合に臨みましたが、練習も試合も楽しくなくなり『どうやったら、これだけ自分に重圧をかけて試合でピークを持ってこられるのだろう』と改めて彼の凄さを実感しました」
昨季の世界選手権では4位。さらにコーチ不在で挑んだ今季は、11月のフランス杯で自己最低の8位と落ち込んだ。
「ぼろぼろのどん底の状態を経験しました」
失意の宇野は、日本に帰らず、スイスのステファン・ランビエルコーチの拠点で練習。続くロシア杯では調子を取り返し、4位にまで這い上がった。
「厳しい練習というよりは、やることはやって、優しさがあるチーム。僕が求めていた環境でもある。やっとロシア杯から今季をスタートできたという気持ちです」
ランビエルは特に表現力が評価された元世界王者。コーチとしての指導も、勝敗より個性を引き出すことに重きを置く。