たとえば、会議や研修の前には深呼吸や太極拳の動きを取り入れることもある。そうすることで、気持ちがリラックスし、何を発言しても大丈夫だという心理的安全性が高まるという。事実、グーグルが日本で開いたワークショップに参加してみると、呼吸法からスタート。世界で最も革新的といえる企業の“基本”は、凝り固まった思考を解きほぐす儀式にあった。

 そのグーグルのトップであるスンダー・ピチャイCEOは、日本流の儀式にも注目する。

 2019年11月に来日した際、東京・渋谷に移転したばかりのオフィス内でのイベントについて、ツイッターでこう投稿した。

<東京からこんにちは! 伝統的な鏡開きで渋谷の新オフィス開設をお祝い!>

 投稿にはピチャイ氏と社員らが木槌を樽酒に打ちこむ動画も添えられた。さらに翌日のイベントでは、登壇者らとともにだるまに目入れをし、ビジョンを語った。ピチャイ氏はこうした儀式に共鳴したという。先のプフェールト氏も言う。

「だるまに目を入れるのも鏡開きも、日本のパワフルなカルチャーです。儀式を日常に落としこむことで、変化が促され、文化が醸成されるのです」

 その日本といえば、どうか。年賀状を送るのをやめる「終活年賀状」や飲み会廃止の「忘年会スルー」が話題になるなど、古くからの慣習がどこか置いてきぼり。忘れかけていた「つながり」こそ、グーグルでは価値とみる。プフェールト氏は、こう続ける。

「働き方改革が始まったなら、会社や個人としての価値を追求したうえで、コアバリューを活性化できる儀式を見つけることが大切です。それがイノベーションを生み出します」

 こういった働き方へのリチュアルは、決して、米国全土に広がっているわけではない。『シリコンバレー式 頭と心を整えるレッスン』の著書がある木蔵(ぼくら)シャフェ君子(きみこ)さんは言う。

「アメリカでは、組織としてリチュアルを押し出すことをタブー視する風潮がありました。ただ、グーグルのような大企業が取り入れたというのはとても面白い。新しいリチュアルの形になるかもしれません」

(編集部・福井しほ)

AERA 2020年1月13日号より抜粋

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