湯浅が作る曲の骨格は、ぶっとい筆によって一筆で書かれた「書」のようで、メロディーに言葉を与えていくような本人の歌もダイナミックだ。後期ルー・リードのような物哀しさと荒々しさを併せ持つ、男臭さに引き込まれていく。

 もちろん、そうした湯浅の豪胆さを生かすべく、メンバーは丁寧にメロディーや歌詞に寄り添っている。「寄り添っている」などと表現すると、あまっちょろく感じられるかもしれない。だが、少なくともニュー・アルバム「脈」は、これまでの作品以上に湯浅の持つ言葉と旋律の力を意識してフォーカスさせているように聞こえる。

 今回のアルバムで特に強く歌詞やメロディーに与えたテーゼとは、どういうものだったのか。それはすっかり天狗(てんぐ)になった、厚顔無恥で無礼な人間に対するアイロニカルな批判ではないかと感じる。文明とやらを盾にして、ほかの生き物たちや、目には見えないけれど確実にそこにいる生命体を従属させてしまうような罪深い人間ども。それを決してシリアスに表現せず、諧謔味(かいぎゃくみ)たっぷりに揶揄(やゆ)する。

 その思いが最もユーモラスにデフォルメされたのが、の目線から人間批判を語るような1曲目「ひげめばな」だ。ミュージシャンの井手健介が映像編集をした「ひげめばな」のMVには、あたかもこの歌を歌っているのが彼らであるかのように、縁側や庭でうつらうつらしたり、うろうろしたりする何匹かの猫しか出てこない。アメリカの南部の伝説的スタジオ「マッスル・ショールズ」で録音されたスワンプ・ロックのようなどっしりとした演奏が、メンフィス・ホーンズ張りのゆったりしたブラスが、猫のマイペースな暮らしのおおらかさを伝える。

 制作の流れについて、ディレクターのような役割も果たしたギターの牧野はこう語る。

「2019年2月から3月にかけて、湯浅さんと二人で選曲を始め、春に谷口君に参加を打診しました。谷口君はビートルズにとってのビリー・プレストン、ローリング・ストーンズにとってのイアン・スチュワートのような存在であってほしいというイメージでした。それからリハーサルを開始し、この時点で、MVも作った1曲目『ひげめばな』が作られました。その後、真夏にGumbo Studio(ガンボ・スタジオ)で録音をしました。秋にミックスし、冬にマスタリング。ほぼ一年かけて完成したんです」

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