力を発揮したのは大谷、村上だけではない。今大会初めて4番に座った吉田正尚(レッドソックス)は先制点となる内野ゴロ、そして貴重な追加点となるソロホームランでしっかりと役割を果たし、村上の後を打つ岡本和真(巨人)もスリーラン、タイムリーツーベースで5打点と大活躍を見せている。2006年、2009年に連覇した時は盛んに“スモールベースボール”ということが言われたが、今大会では長打が効果的に出ており、それだけ力のある打者が揃っていることは間違いないだろう。
また日本の最大の強みである強力な投手陣もさすがの安定感を見せた。4番手で登板したダルビッシュ有(パドレス)はソロホームランで1点こそ失ったものの、その前後を任せられた伊藤大海(日本ハム)、今永昇太(DeNA)、大勢(巨人)の3人はいずれも無失点で、投げているボール、投球内容を見ても圧巻と言えるものだった。今後はさらに厳しい戦いとなるが、投手陣の安定感については今大会に出場しているチームの中でもナンバーワンであることは間違いないだろう。
唯一気になったのがその投手陣をリードする甲斐拓也(ソフトバンク)の状態だ。自主トレではフレーミングの強化に取り組んでいたとのことだが、ミットがなかなかきれいに止まらず、安定感を欠いている印象は否めない。5回に伊藤が登板した場面の6球目の低めのストレートは、しっかりキャッチしていればストライクと判定されるボールだった。また打撃でも3三振と良いところがなかったが、速いボールに完全に振り遅れており、ヒットが出る気配が感じられなかった。今大会は中村悠平(ヤクルト)との併用となっているが、守備面でも打撃面でも現在の状態は中村の方が上に見えるだけに、今後の起用法は検討する必要がありそうだ。
大会前に鈴木誠也(カブス)、開幕後には栗林良吏(広島)が故障で離脱し、ショートの源田壮亮(西武)も右手小指を骨折するなど不測の事態はあったものの、トータルで考えるとここまでは理想的な戦いができていると言えるだろう。ただ準決勝以降で対戦する相手はこれまでのチームとは明らかにレベルがワンランク上がるだけに、一つのミスや判断の遅れが命取りとなる可能性も高い。そういう意味でも栗山英樹監督には、選手の状態をしっかり見極めて、思い切った采配をしてくれることを望みたい。(文・西尾典文)
●プロフィール
西尾典文 1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行っている。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。