試合後、イタリアのフレッチャー(左)と写真におさまる大谷翔平
試合後、イタリアのフレッチャー(左)と写真におさまる大谷翔平

 3大会ぶりのワールド・ベースボール・クラシック(WBC)優勝を目指す侍ジャパン。準々決勝でも「史上最強」の前評判に相応しい戦いぶりでイタリアに完勝し、見事5大会連続となる準決勝進出を決めた。

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 この日も主役はやはり大谷翔平(エンゼルス)だったと言えるだろう。まず驚かされたのがピッチングだ。投球モーションに入るといつも以上に静寂を感じる独特の雰囲気だったが、そんな中で投げる度に大谷の声が響き渡っていたのだ。ここまで前面に気迫を感じさせる投球を見せたのは初めてではないだろうか。投手としての出場はこの試合が最後とも報道されているが、そのことがより投球に凄みを与えていたように見える。

 1次ラウンド初戦の中国戦ではあまり投げていなかったスプリットもスピード、ブレーキともに申し分なく、ストレートも明らかに勢いが戻っていた印象を受けた。序盤に少し飛ばし過ぎた反動からか5回には制球を乱して2点は失ったものの、その結果以上にチームに勢いを与えたことは間違いないだろう。

 そして野手としても3回のワンアウト一塁の場面で意表を突くセーフティバントを決め、先制点を演出。イタリアの守備陣はこれまでの対戦国以上に極端な守備位置をとっていたこともあって、このバントには完全に浮足立っていたように見えた。ヒットはこの1本だけだったが、第1打席ではこれまでの試合でなかなかとらえることができていなかった速いボールを弾き返しており(結果はショートライナー)、これからさらにレベルの高い投手と対戦するうえでも自信となったはずである。前述したように準決勝以降は野手としての出場に専念すると見られているが、今後も打線の中心として期待できるだろう。

 そして最も大きいのはここまで不振に喘いでいた村上宗隆ヤクルト)が2本のツーベースを放ち、状態を上げてきたことではないだろうか。第2打席まではファーストストライクに手が出ていなかったものの、第3打席では交代直後の投手の初球を迷うことなく振り切ってセンターオーバーの当たりを放ち、この一打で迷いがなくなったように見えた。

 続く第4打席のツーベースは相手のレフトの対応もまずかったことは確かだが、低めのボールをしっかりとらえており、打撃の内容は良い時の村上を十分に感じさせるものだった。昨年も速いボールに対しては素晴らしい数字を残しているだけに、準決勝では待望の一発が生まれる可能性も十分にありそうだ。

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西尾典文

西尾典文

西尾典文/1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究し、在学中から専門誌に寄稿を開始。修了後も主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間400試合以上を現場で取材し、AERA dot.、デイリー新潮、FRIDAYデジタル、スポーツナビ、BASEBALL KING、THE DIGEST、REAL SPORTSなどに記事を寄稿中。2017年からはスカイAのドラフト中継でも解説を務めている。ドラフト情報を発信する「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも毎日記事を配信中。

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