Q:うつと診断されたらまずすることは


A:あらゆる病の治療の基本は休養です。うつもしばらく休職すれば回復しますが、そのまま同じ職場に戻ると、たちまち再発してしまいます。休養中に心のバランスを崩した要因を考え、働き方や生き方、極端にいえば人生観をリセットするぐらいでないと休んだ意味がありません。仕事の量を8割にセーブするなど、自分で意識して負荷を減らさないと、投薬や通院だけでは治りません。

 うつの症状がない人も50歳を過ぎれば自己点検が必要です。休みの日に、こんな日々が続くんだという想像を働かせ、定年後の生活の変化を現実的に見据えておく。そうすれば、計画的に生活や価値観の見直しを図れるはずです。

Q:どうすれば再発を予防できますか
A:大事なのは、心のしなやかさや柔軟性の回復です。その点、「街はリハビリの宝庫」といえます。映画館でもスポーツジムでも、職場以外で快適に過ごせる居場所を見つけられれば、仕事のオン・オフの切り替えが容易になります。カルチャーセンターで関心のある分野の講座を受講し、自分も周囲の参加者と同じように笑えるか、興味を持続できるかを確認するのもリハビリになります。

 また、普通なら見過ごすようなごくありふれたものに注意を向けてみるのも効果的です。路傍の緑や花を愛でる習慣を身につけることは、季節の変化による心の浮き沈みへの対応力アップにつながります。

 日常の仕事をきちんとこなすのも大事です。目の前のことをしっかりやっていこうという心構えがあれば、不安は消えなくとも、しばらくは忘れています。ちょっとした頭痛があっても、電話がかかってきて会話に集中していると、痛みを忘れていることがありますよね。このように注意をそらすのは一つの知恵です。ただ、うつになると注意力や集中力が低下するため、一つのことに打ち込むのは難しい面もありますから、そのときは無理せず休んでください。

Q:消えない不安との向き合い方は
A:不安は消し去ることはできないと思い知るべきです。生きている以上、心は揺れるし、健康を損なうこともある。なのに、不安をゼロにしようと思うと、常に不安と向き合うことになり、不安が不安を呼ぶ悪循環にはまります。

 親しい人が亡くなったり、地震や台風によって被災し、生活が一変する状況に置かれたりすれば誰でも精神的に落ち込みます。そんなときも、本来の自分らしさを取り戻すスイッチをもっていれば乗り越えやすくなります。不安や悲しみで頭がいっぱいのとき、別のことを考えて頭を切り替えるよう、前向きになれる人生のストックをいくつか用意しておくのです。過去の成功体験の思い出でも、好きな風景や絵画、音楽でもいい。気持ちが沈んだときに心が楽になれる要素をいつでも取り出して、快くかみしめる。そうすることで、独りでも不安や悲しみを乗りきるきっかけを得ることができます。

(編集部・渡辺豪)

AERA 2019年10月14日号

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渡辺豪

渡辺豪

ニュース週刊誌『AERA』記者。毎日新聞、沖縄タイムス記者を経てフリー。著書に『「アメとムチ」の構図~普天間移設の内幕~』(第14回平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞)、『波よ鎮まれ~尖閣への視座~』(第13回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞)など。毎日新聞で「沖縄論壇時評」を連載中(2017年~)。沖縄論考サイトOKIRON/オキロンのコア・エディター。沖縄以外のことも幅広く取材・執筆します。

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