誰がいつ、うつになってもおかしくない時代。ビジネスパーソン向けに、うつの予防とケア、不安との向き合い方などを東邦大学の水野雅文教授(予防精神医学)に聞いた。 AERA 2019年10月14日号に掲載された記事を紹介する。
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Q:うつ病とうつ状態は違うのですか
A:自殺のリスクも伴う「うつ病」と、ビジネスパーソンが勤労意欲を失う「うつ状態」によって「適応障害」などの診断を受けるケースは医学的に別物です。ここでは主に、後者の比較的軽度な「うつ」を対象に解説します。
Q:何がきっかけでうつになるのですか
A:生涯に5人に1人は心の病にかかり、そのうち75%は25歳までに発症しています。職場でうつにかかりやすいのも若手で、20~30代が目立ちます。人間関係のストレスが引き金になるケースが多く、複数の要因が重なっていることが多いです。たとえば、過重労働や上司のハラスメントに加え、職場に対する期待値とのギャップが膨らむ状態です。男女平等やダイバーシティーをうたう企業の内実が、「見えない天井」に塞がれているのを目の当たりにすると、これまで自分が大事にしてきた価値観を踏みにじられる挫折体験に見舞われます。
産休や育休から復職したタイミングも要注意です。育児と業務の両立に追われる中、会社の支援不足を実感したり、就労規則の不備に直面したりすると、仕事への情熱を失うことがあります。不安が高じて転職も考えるものの、厳しい現実を知って新たなストレスが加わるという、負の連鎖につながることもあります。
50代は職場の配置転換や体調の変化をきっかけに、心のバランスを崩すケースが見られます。環境の変化に対応するのが年齢と共に不得手になるため精神疾患にかかりやすくなるのです。
Q:パワハラ上司になりたくありません
A:上司の言葉が、部下の人格や価値観を踏みにじるようなツボにささると、大きなダメージを与えてしまいます。ただ、人によって感性は異なります。このため上司には、平素から部下の生活環境や個性も把握できる距離感を保ち、個人差を踏まえたコミュニケーションが求められます。上司も自己開示しないと、部下の信頼を得られません。若い頃の失敗談や、かつての職場環境のひどさを笑い話にして伝え、以前よりは一人ひとりが配慮されてきているという認識を共有するのも有意義でしょう。
職責ですから、上司の方は自信をもって対応してほしいですね。不安であれば、上司側が複数で面談するなどの対応も安心につながります。