日本学術振興会特別研究員PD 郡司芽久さん(30)/1989年生まれ。東京大学大学院農学生命科学研究科博士課程を修了。国立科学博物館に勤務。著書に『キリン解剖記』。「キリンに感じるのは神々しさ。上品で、凜として、身体の動かし方にもひかれます」と郡司さん。お気に入りのキリンのTシャツを着てきてくれた(撮影/写真部・掛祥葉子)
日本学術振興会特別研究員PD 郡司芽久さん(30)/1989年生まれ。東京大学大学院農学生命科学研究科博士課程を修了。国立科学博物館に勤務。著書に『キリン解剖記』。「キリンに感じるのは神々しさ。上品で、凜として、身体の動かし方にもひかれます」と郡司さん。お気に入りのキリンのTシャツを着てきてくれた(撮影/写真部・掛祥葉子)
写真:郡司さん提供
写真:郡司さん提供

 すぐ誰かの役に立つというわけではないかもしれない。けれども、どんなジャンルも研究者たちの「そこまでやるか」な探究心と情熱で切り拓かれてきた。ライター・福光恵氏がマイナーなジャンルの最先端をゆくキリン研究者の日常に迫った。AERA 2019年10月14日号から。

【郡司さんの研究風景はこちら】

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 白衣で研究室にこもって研究に没頭しては、何やら難解な論文を書いている……昔は研究者に、そんな仙人のようなイメージを持つ人も少なくなかった。だが、今や交付される研究費は、先細りまっしぐら。3年前にドイツに抜かれ、世界4位に陥落した。そんな不景気風にさらされて、修士号や博士号を取得する学生の数も先進国で唯一減少しているという。

 研究者にとっては、研究費も職も自分の手で勝ち取らなければ研究を続けられない、受難の時代だ。バイオとかiPS細胞とか、すぐに人々の役に立ったり、すぐにお金を生んだりしそうな研究ならばまだいい。心配なのは、ちょっと変わったマイナージャンルの研究者たちだ。無事なのか。

 そんな思いを胸に、研究テーマをやさしく説いた本をヒットさせている、研究者に会いに行った。大丈夫。今の状況に対応して進化した知恵と気迫で、多くのものと闘いつつ、静かだけれど熱い研究生活を送っていた。

『キリン解剖記』の著者で、日本学術振興会特別研究員の郡司芽久(めぐ)さん(30)。キリンを研究テーマにする農学博士だ。キリンの首の筋肉や骨格を詳細に調べ、これまで知られていなかった働きをもつ「第8の“首の骨”」が存在することを発見。2016年、その論文が世界的な脚光を浴びた。

 細胞や遺伝子など、医療に役立つミクロの研究が主流となるなか、動物のひとつの個体が、どう進化したとか、どう動いているかという研究をする人は少ない。なかでも、日本に野生がいないキリンを専門に研究をする人は、ほぼゼロだった。

「よく聞かれます。『この研究は何の役に立つんですか』って。でも、研究の一番の目的は、わからなかったことがわかるようになること。どう役立つかは、あとでみんなの広い視点で考えていくのがいいと思う。だから今は自分の専門と遠く離れた人にも、こんな研究があることを知ってもらうのが大事だと思っています」

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