SNSの活用や特定の人物へのスカウト、集団移籍のスクラム……。多様化する転職スタイルのなかで特に注目したいのは、業界や職種にとらわれない「スライド型」の転職だ。松本さんも、こう言い切る。
「これからの時代、キャリアはアップではなく、スライドで考えるべきです」
どういうことか。
従来の考え方では、人事であれば人事のエキスパートになることがキャリアアップの近道とされてきた。だが、令和の時代は違う。松本さんが続ける。
「一つの業界や会社で人事を極めようとすれば、上にいくほど道は狭くなり、先人やライバルで渋滞している。コピーライターを極めたくても、糸井重里さんを超えることが難しいのと同じ。それなら横にスライドして業種や職種を変えて、オリジナリティーを高めるほうがいい」
こんな例がある。
大手システム会社に勤めていた男性(55)は、関わっていたプロジェクトでプログラミング言語「COBOL(コボル)」の終了とともに、課長代理に降格。部下や後輩たちの下で働くことになった。「長年エンジニアとして勤めてきた」という職務経歴書は面白味がなく、書類落ちばかり。だが、30年のキャリアをひもとくと、部下として働いた女性社員が誰一人としてメンタル不調に陥らなかったことに気付く。
この男性、幼い頃から家庭に女性が多く、いつも姉の顔色をうかがっていたという。そのノウハウを誰でも再現できるようにまとめ、社内で展開していたことを経歴書に記載し、伸び盛りではあるものの離職者が多いと言われていた別の大手システム会社に応募。すぐに面接に呼ばれ、執行役員として管理部長のポジションを手に入れた。収入も2割アップした。
未経験の管理部門への転職ではあったが、エンジニアの気持ちがわかる管理者としてオリジナリティーを発揮。同じ業界にいながらも、職種転換でキャリアアップすることができた。(編集部・福井しほ)
※AERA 2019年9月30日号
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