タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。
【写真】世界自然遺産のオーストラリア・シャーク湾の外縁の断崖
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父の初めてのお盆なのに、危うく忘れるところでした。昨年11月に他界した父。あと少しで85歳でした。自宅で倒れて意識不明となり、最後の瞬間は偶然病室で二人きり。すうっと数値が下がって、文字通り私の腕の中で息を引き取りました。この頃、やけに父に会いたいのです。亡くなるまで5年も会っていなかったというのに。だからこそなのだろうけれど。
7月にお盆をやるのか8月なのか。親戚づきあいが薄かった私の育った家では、お盆といっても特別なしつらえはしていなかったように記憶しています。結婚してから、なんとなく夫の先祖を迎えるお盆プレイをしたくなり、それらしい飾りつけなどをするようになったけれど、それも7月だったり8月だったり、相変わらずの根無しのお盆。真冬のオーストラリアで大内行灯を出し、野菜の牛馬を作ります。
今年の7月は、一家で世界自然遺産のシャーク湾に出かけていました。お盆だってことはすっかり忘れていたのだけど、雄大な自然を眺めながら父のことを何度か考えました。きれいな浅瀬ですぐ足元にいたエイは、もしかして父だったのかしらなんて後から考えたりして。踏まなくて本当に良かった。
8月は東京で仕事。13日にふと、父の初盆だと気がついて母に電話したら、もう先月御墓参りを済ませたわよ!と。姉と母でお参りしてくれたならとホッとしましたが、私は私でやらねばなとうなぎの寝床の花瓶のそばにようかんとお茶を供えました。なんかサインでも送ってくれるかと思ったけど、怖がりの私を慮(おもんぱか)ってか何事も起きず。
お盆はいつも、人ごみの中にいるような気分。終わるとすうっと楽になります。涼しくなった夜風に当たると、無性に父が懐かしい。悲しみを通じて誰かと一緒にいることもできると知った晩夏です。
※AERA 2019年9月9日号