■大作曲家の晩年
ブラームスは64歳のとき肝がんで亡くなっている。だが、最晩年には顔面神経麻痺や、構音障害(発音が正しくできない症状)、歩行困難などの神経症状がみられた。OSA患者に脳血管障害が多いことから、小出血や梗塞が起きていたのかもしれない。若い頃のブラームスははにかみ屋ながら快活な青年で皆に愛されていたが、晩年は気難しく怒りっぽい老人だった。親友であった名バイオリニスト、ヨゼフ・ヨアヒムや外科医ビルロート、永遠の愛を捧げたはずのクララとも、些細なことで喧嘩をしている。
OSA患者は、慢性的な睡眠不足から気分変調や抑うつ、易怒性(いどせい=怒りっぽいこと)がみられるが、嫌な爺さんになった原因は彼のいびきと居眠りとも関係あるのではあるまいか。
晩年には最盛期に比べて作曲活動も不活発になっているが、これは体調の影響もあるだろう。ダイエットと禁酒(むりなら減酒)による体重減量に加えて、現代であればマウスピースや経鼻的持続陽圧呼吸療法(Continuous Positive Airway Pressure:CPAP[シーパップ]療法)で治療できたのではないかと思うと残念である。(文/早川 智)
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