「夜行バスでさっき着いてん」

 東京駅のすぐ近く、サピアタワーの9階には、関西大の東京センターがある。就活ピーク時には月に900人以上の学生が訪れる、拠点の一つだ。パソコンやコンセントの完備はもちろん、カフェマシンや炊飯器、カレーのルーもある。そこで一人暮らしをしているかのようにソファやドレッサー、コートハンガーも置かれていた。ここでスーツに着替えたりして、いざ、都内近郊での就活に臨んでいる。

 至れり尽くせりのように思えるが、こうした設備にも企業の気配を感じとれる。

 たとえば、ワンルームに置かれたデスクには、ニトリのパンフレットが置いてある。もちろん、家具もニトリ製だ。

「東京センターで学生支援を強化し始めた頃は、着替える場所も1部屋だけ。センターを訪れたニトリの担当者が家具一式を無償提供してくれて、今の状態になりました」(同センター・小林亮介さん)

 今春、関西大からニトリへの就職者数は早稲田大、立命館大、北海道大などに次いで多い27人が決まった。

 その後も、この話を聞きつけたアイリスオーヤマに勤める大学OBが炊飯器の提供を申し出るなど、卒業生を中心にした“学生支援”の輪が広がっていく。仕事を終えた卒業生がセンターに駆けつけ、即席のOB・OG訪問が行われることもしばしば。「大学はあくまで場を提供するだけ」と言うが、こうした効果もあってか、同大から関東圏の企業へ就職する学生も増加傾向にある。

 きめこまやかな就活支援をする大学は他にもある。桜美林大では13人のキャリアアドバイザーが学生一人ひとりを個別にサポートする。親が就活に加わり手厚く支援をする「親子就活」といった言葉もあるが、いまや、大学が親のように徹底サポートするまでに至っている。

「ほかには上京の交通費を負担する大学も珍しくない。学生数が多い大学は個別指導に限界があり、リクルートなどに外注するケースもある」(大学通信・安田常務)

 バブル期には面接に来てもらう学生のために企業側が移動費用を払うことは頻繁にあった。だが、いまや大学側が支払うケースもあるとは驚くばかり。

 学生が選べるからこそ「選ばれる」大学になる努力は計り知れない。(編集部・福井しほ)

※AERA 2019年8月5日号より抜粋

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