性格も一定程度は遺伝の影響を受けるようだ。勤勉性と開拓性は52%。神経質と外向性は46%が遺伝の影響。反社会性は男性で63%、女性で61%が遺伝の影響。マリフアナへの依存も61%と高かった。

 能力や性格に遺伝が影響しているなら、それらが発揮された結果とも言える収入には、どの程度遺伝の影響が表れるのだろうか。

 名古屋大学大学院の山形伸二准教授、慶応大学の中室牧子教授らが、2013年に日本人の双生児約1千人を対象に調査したデータは、20~60歳の男性について、収入に対する遺伝の影響が、年齢でどう変化するかを示している。

 山形准教授によると、遺伝の影響は20歳で22.7%。その後、30歳で38.2%、40歳で56.5%と右肩上がりで、ピークを迎える43歳で58.7%まで高まった。その後影響は落ち始め、50歳では52.3%だった。

 若い頃似ていた双子も、年を追うごとに重ねた年輪の違いが際立ってくるもの。それならば稼ぎだって、遺伝の影響は年を重ねるに従って減っていくのではないか──。そんなイメージを見事に打ち破るデータだ。一体なぜなのか。山形准教授はこう解説する。

「新卒一括採用を思い浮かべればわかるように、若い時期には遺伝的個人差は限定的にしか収入に反映されない。それに対し、30代、40代となるほど遺伝的個人差が職能として発揮されやすく、それに応じた収入のばらつきも大きくなる」

 あえて下世話な言い方をすれば、若いうちは能力が低い学生でも、様々なコネや周囲の助言で高い初任給を得る職業に就くことがしばしば起こりうる。就職活動が運不運に左右されることもある。

 だがキャリアが長くなるにつれて、様々な選択や試練をくぐりぬけるたびに本来の実力が問われ、遺伝の影響力が増していく。そんな可能性を示唆していると言えそうだ。

 ただ、ここまで読み進めてきて「なるほど、カエルの子はカエルか」と考えるのは早合点だ。これらの数字はあくまで「1人の人間の中で遺伝と環境がどのぐらいの比率で影響しているか」の目安にすぎない。遺伝には様々なパターンがあり、必ず父や母の影響を強く受けるわけではないし、両親だけから影響を受けるわけでもない。両親の一方が無鉄砲だから、子も「親譲りの無鉄砲で……」という話ではないのだ。(編集部・小田健司)

AERA 2019年7月29日号より抜粋

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