
親が年老いてくれば、車や運転免許の処分や整理についても必然的に考えざるを得なくなる。ましてや高齢者ドライバーによる悲惨な交通死亡事故は近年、枚挙にいとまがない。
神奈川県内在住の雑貨店主の女性(55)は、同居している88歳の父親が自分の目を盗んでちょこちょこ車の運転をしていることに気がついて愕然とした。昔から運転には一家言あり、年齢の割には矍鑠(かくしゃく)としているには違いないが、事故を起こしてからでは遅い。自身は一人娘が大学生の頃に夫と離婚、実家に戻って両親の面倒を見ながら第二の人生のために税理士の資格取得を目指して仕事の合間に勉強を続ける頑張り屋だが、どうやって頑固な父親に引導を渡すか頭を悩ませている。
「ええかっこしいの父が恥ずかしくて乗れないように、真っピンクの軽自動車にでも乗り換えるしかないかなと考えています」
こう話す女性と対照的に、長野県出身の自営業男性は、建て替えた新居で一人暮らしを始めた母親から「そろそろ車に乗るのやめにしたいけど、どうしたもんかねえ」と相談を受けた。しかし、最寄りのコンビニですら2キロ、かかりつけの病院までは5キロ以上も離れている田舎の中山間地域では、おいそれと車を手放すこともできない。男性は言った。
「衝突回避性能に優れた最新式の軽自動車にするか、ブレーキとアクセルを踏み間違えてもギアが抜けて大暴走はしないだろうマニュアル車にするか、先日母親を連れてディーラーをいくつか回ったのですが、まだ決めかねていますね。今回の経験から、私自身はマニュアル車が運転できなくなった時点で車に乗るのはすっぱりやめようと思うようになりました。これも一つの生前整理かな」
(編集部・大平誠)
※AERA 2019年7月1日号より抜粋