

元朝日新聞記者でアフロヘア-がトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。
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メンズメイクが広がっているそうだ。スキンケアだけでなくファンデやシャドーで印象を変える。飾るわけじゃないが身だしなみを整えたい。時代はジェンダーレス。男はこうでなきゃなんていう呪縛は不要。美しくて何が悪い?
……はい。ようこそメンズ諸氏、メイクという迷宮へ!
いや、メイクって確かに素晴らしいのよ。特に現代では製品も技術もすごくてナチュラルで、努力次第で「なりたい自分」になれるらしい。
しかしだな、光り輝くものは闇もまた深いのである。
メイク経験者として最近、難問だと思うのは「メイクのやめどき」あるいは「引き返しどき」だ。
メイクがうまくなるほどメイクを取るのは難しくなる。最近、見知らぬ女性から挨拶されて誰だったか思い出せず、後から確かめたら実は何度も会った人ということが2度あった。一瞬、私もボケたかと焦ったが、よく考えるとどちらもスッピンだったのだ。スッピン可愛かった。でもあまりにも、前に見た顔とは「違う顔」だった。彼女たちは二つの顔を行き来する人生を送っているのである。
年をとればさらに事態はシビアになる。表舞台で活躍する女性に会うたびに思うのだが、同じ顔でいることが求められる人は年をとることが許されない。なのでメイクが時とともに濃くなっていく。間近で見ると壮絶な覚悟のようなものをビシビシ感じる。尊敬する。すごいと思う。これは常人にできることではない。というか、常人が覚悟もなくこんなことを真似してはいけない。
なりたい自分になると頑張るのは素晴らしい。しかし一方で、本当の自分を自分で認めるのも大切である。そうでなければいずれ苦しくなる。本当の自分を隠して生きる人生ほどつらいものはない。
かくいう私は、公式写真撮影ではプロのメイクに頼るヘタレぶりを発揮しつつ、通常生活では何とか迷宮を脱出した。結論から言うと、メイクをやめても特に人生に支障はなかったよ。それがわかった時は嬉しかった。参考情報。
※AERA 2019年5月20日号
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