フィナンシャル・タイムズ(FT)紙のアフリカ編集長・デイヴィッド・ピリングさんによる『幻想の経済成長』は、各国で取材した豊富な事例をもとに「成長至上主義」の限界を明らかにし、脱却するための道筋を示した1冊だ。著者のピリングさんに、同著に込めた思いを聞いた。
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経済成長を測るための有効な指標として、影響力を持つ「GDP(国内総生産)」。
だがGDPの拡大、経済成長だけが幸福への道なのか。フィナンシャル・タイムズの記者として20年間にわたり五大陸を取材してきたピリングさんは、緻密な取材をもとに「GDP至上主義=経済成長神話」の正体に迫ってゆく。
「昨年、英語圏でこの本を出版すると読者からは好意的な感想が寄せられました。多くの読者が直感的に、発表される経済統計と実生活の間に、違和感を抱いているのです。専門家の間では当たり前でも、一般読者が知らなかった事実を書いたので、両者の反応には違いがありました」
昨年来、日本でも統計不正がニュースになっているが、統計の数字は意図的に「操作」が可能だ。その仕組みも、本書を読むとよくわかる。
たとえばGDPがいかに生み出され、成長したのか。1930年代のアメリカ社会を背景に、「GDPの生みの親」とされるアメリカの経済学者、サイモン・クズネッツとの人生が、物語のように描かれる。
「統計に何を選び、何を除外するかは、ケーキのレシピに似ています。シンプルなスポンジケーキのような経済成長を望むのか、チョコレートケーキにすべくフィリング(詰め物の中身)を追加するのか。クズネッツ自身は、『国民経済統計は社会福祉に有害なもの(軍備や広告、ギャンブルなど)は指標から除外し、国民に有益な経済活動に限定すべきだ』というスポンジケーキ派でしたが、現実にはホイップクリームをトッピングした、ダブルチョコレートファッジケーキのレシピが残ったのです」
現在でも、GDPには良しあしに関わりなく、経済活動のすべてが取り込まれている。乳脂肪分の高いケーキのように、経済成長は必ずしも健康に良いとは限らないのだ。