150年近い時を経て、私が上陸するハワイは、バードが見たハワイとは全く異なることは百も承知だ。それでも、彼女が感じたハワイの魅力、今につながるエッセンスだけでも感じられるのではないか。

 当然、バードはショッピングセンターで買い物したりはしない。では何をするか。

 馬に乗り、野営し、そして山に登る──。

 裏ハワイ探しの第一歩は、山登りから始めたい。

 バードが登ったのはハワイ島のキラウエアやマウナロアといった火山。それには遠く及ばないが、日本人に一番身近なオアフ島でも、手軽にトレッキングが楽しめる。

 ワイキキを離れ東海岸へ出ると、カイルアという街がある。カイルアビーチ、その隣のラニカイビーチが人気の小さな町だ。高級住宅地を通り抜けた山側に通称「ラニカイ・ピルボックス」、正式にはカイヴァ・リッジ・トレイルというトレッキングコースがある。

 ピルボックスとは第2次世界大戦時に見張り台として建てられたコンクリート製の防御陣地で、軍事用語でいうトーチカのこと。形が薬箱に似ていることからピルボックスと呼ばれるようになったという。

 ノースショアのエフカイ・ピルボックスなど、オアフ島の各地にピルボックスは残っていて、人気のトレッキングルートになっている。

 ハワイでトレッキングと言えば、ダイヤモンドヘッドに登るのが定番かもしれない。舗装もされていて初級者向けと聞くが、そちらはいわば表ハワイ。一方ラニカイ・ピルボックスは未舗装で、中級者向け。ローカルの人も多く、裏ハワイ感満載だ。

 木の根や岩に手をかけながら慎重に斜面を攻略していくと、30分ほどで山頂のピルボックスに到着する。

 見渡す限り、エメラルドグリーンの海。もともと島に上陸する敵を見張る目的で建てられたのだから当然だが、見晴らしが素晴らしい。

 ハワイ語で「ラニ」は天国、「カイ」は海を意味するのだという。まさに「天国の海」。登りのつらさが一瞬で吹き飛ぶような絶景が広がっている。

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