幸子さんのようなケースでは、掃除や洗濯、料理といった日常生活をはじめ、外出して目的地にいくためのリハビリを理学療法士や作業療法士などとともに取り組みます。このため、病院などの施設内でおこなう通所リハビリよりも実際の生活の中でおこなう訪問リハビリのほうが、適していたわけです。

 目標の実現のために幸子さんのリハビリがスタートしました。

「リハビリは決して楽ではありません。だからこそ、リハビリの期間とメニューを示した上で、ご本人がOKかどうか、意思を確認しながら、内容を決めていきます。医師が一方的に治療法を説明するのではなく、患者さんと医療者が協働で最善の方法を考える共同意思決定(SDM、Shared Decision Making)に従って、おこなわれます」(同)

 幸子さんのリハビリは週に1回、40分間、理学療法士がサポートする形でおこなわれました。水間医師は3カ月に1回、リハビリの進捗度やリハビリが問題なく実施できているかなどの確認のために、幸子さんの自宅を訪問します。そこでは血圧・脈拍、筋力、バランス、日常での動作などのチェックをおこない、幸子さんの体力や目標の進捗を確認しながら、リハビリのプログラムを調整していきます。

 幸子さんが一番初めに目標としたのは、歩いて20分ほど先にあるスーパーへ行くことでした。そのために最初は庭を少しずつ歩く訓練からスタート。足腰の筋力をつける体操なども指導し、幸子さんが自主トレにも取り組んだ結果、徐々に歩ける距離が延びていきました。

「健常者の歩行速度だと10分くらいで行けますが、幸子さんの場合はゆっくり歩いて20分。『帰りはタクシーを使うけれど、行きはどうしても歩きたい』と意欲的でした」(同)

 歩行訓練を続けた結果、3カ月後、理学療法士に見守られながらですが、スーパーに1人で歩いて行くことができました。

 現在、訪問リハビリ開始から6カ月がたち、スーパーより少し遠くのお店や、クリニック、銀行のATMなどまで歩行が可能です。

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ベースとなるのは、本人が主体的に決めること