一方、世界選手権は4位と悔しい思いをした宇野は、

「この試合は来季のスタートという気持ち」

 と宣言し、気合を入れて臨んでいた。しかしショートでは4回転トウループにミスが出て、92.78点と出遅れた。

「自分は成長がない」

 と深く反省。するとフリーでは、「トリプルアクセル+4回転トウループ」という世界初の大技に挑戦した。連続ジャンプの二つ目は助走の勢いが落ちていることから、4回転を跳ぶことなど誰も想像しない組み合わせだ。しかも宇野は、それを演技後半の疲れているタイミングで入れた。その点数は、1組のジャンプで19.25点もあり大きな武器となる。本番では転倒したものの、回転は足りており、

「何年もかけて武器にできれば」

 と手応えを得た。多くの関係者からも「超人的」と称賛された。宇野は世界選手権後には、

「僕は新たなジャンプよりも、今のジャンプを磨くことが必要」

 と話していたが、チェン、羽生らの300点超えを見て、心境の変化があったという。

「男子の成長はとてつもなく速く、自分もまだ成長していかないと。今季、僕は4回転サルコウやループ、跳べたことがあるジャンプを練習せずに1年を過ごしてしまいました」

 来季に向けては、大幅なジャンプのレベルアップを計画。具体的には、この大会で初成功した「4回転フリップ2本」と、挑戦した「トリプルアクセル+4回転トウループ」の導入。さらに「4回転ルッツかループは入れていきたい」という。一気に、今季より3段階アップする。

 実際に、今大会のエキシビションの練習では、来季に予定する4回転すべてを成功させ、身体能力の高さをアピールした。

 さらに前人未踏の試みもある。まだルール上は存在すらしていない5回転トウループだ。

「4回転トウループが回りすぎるので、ちょっとだけ練習していこうかな。何か新しいことをやっている時が一番楽しめる。それが5回転になるのかな」

 今季は苦しんだシーズンだったが、新たなジャンプすべてを手に入れれば、来季は世界の頂点が見える。(ライター・野口美恵)

AERA 2019年4月29日号-2019年5月6日合併号より抜粋