──意欲の冷却効果の逆の例として、マララさんを挙げられた。

「娘の翼を折らないようにしてきた」……彼女のお父さんの素晴らしい発言です。だから、ああいう恐れを知らず、脅しにもひるまない娘ができたのよ。ほとんどの娘たちは翼を折られてきたということの裏返しですね。

──「女子は子どものときから『かわいい』ことを期待され」て、「相手を絶対におびやかさない」よう、いい成績を隠そうとすると指摘されました。

 上智大卒の女性の友人が面白いことを言っていました。英オックスフォード大にいたとき、留学してきた東大卒男子が周りの女子学生を見て「女の人にもこんなに頭のいい人がいるんですねえ」と心底驚嘆したのを見て、「あなたの周囲にいた東大女子たちが、バカなふりをしてきたことに気がつかなかっただけだろう」って思ったって。

 女性がかわいいふりをするのは、「男社会の二流のポジションに一生甘んじます」って宣言するのと同じ。「あなたのライバルに決してなりません」と。

 このやり方は、男性が権力を握る社会が未来永劫変わらないことを前提にしています。男性を見上げて、褒めそやして、おこぼれをもらう。男の自尊心のお守り役、と私は呼んでいます。それが「賢い女」の伝統芸能なのよ。男性優位の社会ではそれが女の生存戦略でしたが、それを個人個人がやっている限り、決して社会は変わらない。個人としての最適解は、困った構造の再生産につながることもあります。セクハラも賃金差別も、個人的な経験が社会構造につながっている。「個人的なことは政治的である」とフェミニズムの考え方を何度でもくりかえし言わなければならない。18歳の学生には、そこがまだわからない。だから大学で女性学をやるのよ。学問は大事です。

 今回の反応でもわかるように、男権社会のメンタリティーは18歳男子の間にも再生産されています。でも、東京医大の不正入試を世論は許さないし、#MeToo運動で政府の高官は辞職するし、上野が東大入学式の来賓祝辞に呼ばれた。数十年前には考えられなかったことです。変化は確実に起きています。 

──新入生に行動を起こしてほしいというメッセージでもあったのか。

「私を突き動かしてきたのは社会の不公正に対する怒り」だと言いました。不公正があったらあなたたちも怒っていい、怒るべきだというメッセージですね。

──知を生み出す知「メタ知識」を身につけてほしいと祝辞を締めくくりました。

 文系理系問わず全ての研究者にとって、これは普遍的なメッセージだと思います。総長も教養学部長も同じ趣旨のことをおっしゃいました。正解が出てしまったことをやっても研究の意味はありませんから。そう考えれば、正解が一つしかないような問いを出して選抜試験をやるということ自体が矛盾ですよね。東大生に世界に通用する人になってほしい。エリートになっても、難民になっても、世界のどこかでちゃんと生きていける人になってほしいと思います。

(聞き手・白山羊)

AERA 4月29日─5月6日号

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