上野千鶴子さんが東京大学の入学式で述べた祝辞は、お祝い一辺倒ではなかった。 論議を呼んだ表現に、フェミニズムの旗手が込めた思いを聞いた。
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依頼は昨年末でした。青天の霹靂でしたから、断ろうかと迷いました。イギリスかぶれの角帽ガウンのコスプレも嫌でしたし(笑)。東大の女子学生比率が2割の壁を越えないことがずっと懸案なのは承知していました。女子の4年制大学進学率が48%になり、どの大学も女子学生比率が上昇するなかで、東大だけが増えないのは異常な事態です。なぜ今年度、上野を選んだのか。昨年からの#MeTooムーブメントと、東京医大の不正入試が相次いだタイミングもあったと思います。内部で上野の指名に尽力してくださった方々もおられると聞き、私に与えられた役割を果たそうと考えて、お受けしました。
東大執行部がリスクを背負って依頼してくださった。しかも、私が何を話すかは予測できないわけです。もし発言内容に介入したら、私はその経緯をメディアに明らかにするかもしれませんしね(笑)。原稿は事前に総長以下執行部の方が目を通しておられますが、数字の訂正以外、内容への介入は一切ありませんでした。私に期待と信頼を寄せてくださったことに、感謝しています。
──ワイドショーなどで取り上げられ、ネット上では「全然祝辞じゃない」「腹が立つ」「吐き気がする」といった反応も。
いつでもどこでも言っている当たり前のことを言っただけで、データも誰でも手に入るものばかりです。反応があるのは想定していましたが、賛否ともその大きさは想定以上でした。
性差別を話題にすると、脊髄反射的に拒否感、嫌悪感を抱く男性がいますが、その点では若者もおっさんも変わらない。18歳男子にもちゃんと男権意識は再生産されているんですね。江原由美子さんの研究に、性差別意識が共学校の男・女、別学校の男・女で誰が一番強いかというと別学男子だったというデータがあります。目の前に生身の女子がいない環境で、両親を見て育つ。父親の顔色をうかがう母親を見て育つのでしょう。
優等生って、ものすごく不安感の強い人たちなんです。承認欲求も強いから、ほめてもらいたい。私の言葉で不安の根っこを脅かされたから、過剰反応するんでしょう。本当は、反射的な脊髄反応を「待てよ」と押しとどめるのが知性ってもんだけど、それが無いんでしょ(笑)。