ネット上で多くの人から資金を集める、近年注目の資金調達法クラウドファンディング。一見縁遠そうな手法が、地域が抱える空き家の再生に生かされはじめている。
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今年1月、都内に住む齊藤美絵さん(37)は、地元の大分県に住む父親(73)からこんな相談を持ちかけられた。
「部屋を借りてくれる学生さんが全然いなくなった。何かいいアイデアはないだろうか」
父親は地元で40年以上学習塾を経営しており、多い時には千人以上の生徒を抱え、多くの校舎も持っていた。だが少子化の影響もあって徐々に縮小。最後に残ったのが、学習塾と大学生の下宿部屋を併設した築45年のマンションだった。5階建てで、1~2階が塾の教室、3~5階の15戸を付近の短大生に賃貸して、収益を上げていた。
立地は大分駅から車で約10分、短大からも徒歩5分と利便性はいい。周囲の物件に比べてデザイン性が高かったこともあり、賃貸部分はほぼ満室が続いていた。だが、跡継ぎ不足で付近の畑がアパートになったり、2015年ごろから大分駅前が再開発されたりしたことが影響して、入居率が低下。新しい物件に学生を取られてしまい、今では1戸以外はすべて空き部屋になってしまったという。
「父も外壁の塗装をしたり、部屋を改装したりと努力はしたようでしたが、入居者は増えなかった。大分県内にリノベーションをして入居者を見つけてくれる会社もあったのですが、1億円ほどかかると聞き、頭を悩ませていました」
東京に住む齊藤さんが全てを取り仕切るのは難しく、高齢の父親に任せるのも負担が大きい。とはいえ、40年以上も生徒たちと過ごした父親の思いは残したい。思案していたところ、出合ったのが、ネット上で資金を集めるクラウドファンディングを使って空き家を再生する事業を手がける会社だった。
「私はただ物件をきれいにするだけでなく、そこに集まって住む人たちがつながって、ワクワクできるような空間になることが理想だと考えていました。それを相談すると、『学び』をテーマに人が集える場所にするのはどうですか、という提案をもらいました。これこそ、父の思いが受け継がれる形だと思い、物件の再生を依頼しました」