【エピソード1】

Bさん:先生、お久しぶりです。あのう、定期健診で尿酸値が高いという結果で、再検査を受けるように言われまして……。

医師:(カルテを見ながら)Bさんはこれまで特に大きな病気もされたことはないですね。健診の結果を見ると、確かに去年の数値からかなり上がっていますね。何か心当たりはありますか?

Bさん:いえ、別に。ただ、仕事が忙しくて、お客さんや部下と飲む機会は多いので、その結果がこうなのかな、とは思っていました。気になったので、ちょっとネットで調べてみたら、痛風って、たまらない痛さだとか、経験者の話も読みました。今のうちからサプリメントを飲んで、お酒もプリン体ゼロのビールにして、そして適度な運動を……。

医師:いろいろ調べられたのですね。それは良いことですが、健診からしばらく経っていますし、まずは、あらためて検査をしましょう。

Bさん:肝臓や腎臓が弱っても自覚症状はほとんどないとネットにもありましたけど、まだお酒を少し控えたり、運動を始めたりとか、検査や薬に頼らないで良い方向にもっていける方法はあると……。そうやって、〇〇%の人たちが尿酸値を下げたって。

医師:うーん、Bさんの場合、急に数値が上がっているので、生活の中で何か思い当たることがないか、もう少し教えてもらえるでしょうか。

Bさん:自分の体のことは自分が一番良く知っていると、子どもの頃は親から、今は友人や、ネットでの体験談でよく分かっていますから大丈夫ですよ。

イラスト/浜畠かのう 『治療効果アップにつながる患者のコミュニケーション力』(朝日新聞出版)より
イラスト/浜畠かのう 『治療効果アップにつながる患者のコミュニケーション力』(朝日新聞出版)より

【このときの医師の気持ち】

 尿酸値が上がる主な原因は食べ物に含まれるプリン体だけれども、急に数値が上がったのは気になるところだし、もっと詳しく調べてみる必要がある。ネットで調べた知識を鵜呑みにして、こちらの話に耳を傾けてくれない患者さんが増えたのは本当に残念なことだ。ネットの情報で自己診断して、薬まで指定してそれを出してほしい、という患者さんもときどきいるし……。健康も、病気も十人十色で「同じ」症状や検査結果でも、簡単に自己診断はできるものではないし、人それぞれ事情が違うから治療法や薬も異なる。だから一人ひとり診察をして、その人の生活習慣や仕事の様子、それに性格まで考慮して診断する必要がある。ネットに書かれていることがみんなに同じように当てはまるんだったら、医師も病院も必要ないんだけれど、ネットの影響は本当に大きい。もし書かれていることを信じて当てにならない高いサプリをたくさん飲んだり、偏った食事をしたりして悪くなってしまっては、いけないのだけれど……。

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