「中学生の実態とほぼ重なっている。これを一部だけと決め付けず根絶を目指さなくてはいけない。指導者、選手、保護者に対する啓発を行っていきたい」(鎌田さん)
一方、血液内科を専門とする首都圏在住の50代の男性医師は「医療の側の責任も大だ」と憤る。テレビのニュースを見て驚いた。長距離選手だった高校時代に鉄剤注射を打った女性が、就職して健康診断を受けたら、内臓疾患が見つかるなど体がぼろぼろだったと報じられていた。
「鉄剤注射は医師免許があれば誰でも打てる。専門外の先生たちは鉄の怖さを知らないのではないか。連続で打っていれば鉄過剰症になるし、糖尿病の原因にもなる。心臓に鉄がたまれば収縮力が落ちるので、運動パフォーマンスは悪くなる」
走れるようにとやったことが、マイナス要因になるわけだ。
自身の患者に、鉄剤注射によって鉄過剰症を起こしたケースはないが、アスリートにありがちな「鉄欠乏性貧血」の症状でやってくる中高の部活生がいる。生理のある女性が多いが、男子でも成長期に骨が急激に大きくなるなか、血液不足の状態になって鉄欠乏性貧血になるケースがある。
基本的に内服薬で治療し、注射が必要になるのは、薬を飲むと胃腸障害や吐き気などを起こすごくまれなケースのみ。内服薬であれば、体が吸収しなかった分は体のほうがいらないよ、となるので、便などに出る。
ところが、注射による投与はすべて体内にたまる(図参照)。
「良識ある医師なら、いくら頼まれてもそれはできないと断るのではないか」
問題を重く見た医師会もすでに動いている。各都道府県医師会などに所属する約21万人の医師へ向け、安易に使用しないよう伝達した。(ライター・島沢優子)
※AERA 2019年3月18日号より抜粋