京都市は人口に占める学生の比率が日本一。市内には京都大、同志社大、立命館大など有力大学のほか、美大も多い。大阪に本社があるアプリ開発のフェンリルは昨秋、京都支社を開き、こう意気込む。

「インターンシップやワークショップを積極的に開きたい」

 大手企業の顧客を多く持つ同社の強みはデザイン力の高さ。京都支社長の戸塚恵一さんもソニーに30年以上在籍し、AIBOやVAIOなどを手がけてきたベテランデザイナーだ。その戸塚さんに、「大阪に本社がありながらなぜ京都に?」と尋ねると意外な答えが返ってきた。

「我々が欲しいのはUIやUXに優れたデザイナーやエンジニアですが、世界中で不足しており、育てていく必要もあるんです。その点で京都は利がある」

 UIとはユーザーインターフェースのことで、視覚的な美しさや操作のしやすさを示す。UXとはユーザーエクスペリエンスで、ワクワクする楽しさや心地よさなどの「体験」を指す。いまはそれらが洗練されたものしか売れない。

「必要なのは生活者に寄り添った『人間中心設計』。でもそれは、人間らしい生活をしていない人にはできません。その点、京都は通勤地獄もなく職住近接で暮らしやすい。文化も豊か。もう一つ『歩ける街』であることも実は重要です」(戸塚さん)

 京都は歩いて回れるコンパクトな街。歴史的建造物に何百年も続く老舗、町家を改装したお洒落なカフェなどが混在し、路地に迷い込むのも楽しい。

「歩くことでいろんな情報が入ってきて、クリエイティビティーが刺激される。デザインの世界では昔から『歩けるサイズの街から、いいデザインは生まれる』とも言われています」(同)

 街並みだけでなく産業の面から「京都とクリエイティビティーの関係」を語ってくれたのは同市の産業観光局・新産業振興室の川口高司さんだ。

「京都は観光のイメージが強いですが実は昔から製造業が盛んな土地。伝統産業も、時代に合わせて創意工夫を重ねてきたからこそ数多く残っています」

 京都を代表する企業には、磨きあげた匠の技に新しい技術を掛け合わせ、イノベーションを起こしてきた企業が多い。清水焼の技術を電子セラミック事業に発展させた京セラや村田製作所。仏具製造から精密機械メーカーへと転じた島津製作所もしかりだ。(編集部・石臥薫子)

AERA 2019年2月11日号より抜粋

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