Panasonic Design Kyotoのオフィスはオープンイノベーションの場でもある。京都大学や地元の伝統産業とも協力し、家電のイノベーションに挑む(撮影/楠本涼)
Panasonic Design Kyotoのオフィスはオープンイノベーションの場でもある。京都大学や地元の伝統産業とも協力し、家電のイノベーションに挑む(撮影/楠本涼)
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 JR東海の「そうだ 京都、行こう。」キャンペーンから四半世紀超。いま京都に向かうのは観光客だけじゃない。IT企業や大手企業がこぞってこの街にやってくる。なぜいま「京都」なのか。

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 いま京都市内でオフィスを見つけるのは至難の業だ。オフィス仲介の三鬼商事によると、昨年12月時点で同市の平均空室率は1.15%。東京都の1.88%、大阪府の2.83%を大きく下回る。景観保護のための高さ制限などで大規模ビルの供給がほとんどないうえ、近年オフィス需要が急増。「空きはほとんどない状態」(三鬼商事)だ。

 特に目立つのは在京IT企業の拠点開設ラッシュ。昨年は6月のLINEとサイバーエージェントを皮切りに、求人サイト運営のリブセンス、名刺管理サービスのSansanと続いた。今年2月には家計簿アプリ大手のマネーフォワードが、従来の営業拠点を開発拠点に拡充する。

 IT企業だけではない。福岡県宗像市に本社があるロボット開発のテムザックは、2017年から西陣織の機織工場だった建物を研究所に転用しAI(人工知能)や自動運転などの先端研究を進める。パナソニックも昨年、家電デザイン部門の拠点を構えた。企業の間になぜ今、京都ブームが起きているのか。

「優秀な外国人を採用するのに『KYOTO』ブランドが効く」

 グローバル展開する多くの企業があげる理由の一つがこれだ。いまITのエンジニアやデザイナーの争奪戦は世界的に激化している。裏を返せばスキルを持つ人にとって働く場所の選択肢は大きく広がり「一度は暮らしてみたい街」として京都の存在感が増しているのだ。実際、LINEの京都オフィス開設時には約1千人が応募。その8割が海外からだった。

 企業にとって海外から来る顧客をもてなすにも京都は最適だ。石畳の道に面した趣のある木造の建物。西陣織ののれんをくぐると、最先端のロボットが出迎える──。そんなテムザックのオフィスには訪問者が絶えない。

 企業が京都に向かうもう一つの理由は国内人材の獲得だ。マネーフォワードの村上勝俊・京都開発部長は言う。

「事業拡大に必要な人材は、もはや東京だけでは採用できない。京都に拠点を置くことで、関西から出たくないというエンジニアや学生と接点を持てる」

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