しかし、7月からは特別寄与制度が始まり、介護を続けた次男の妻は亡き夫の2人の姉兄に金銭を請求できるようになる。ここに落とし穴が隠れている。
「法改正で認められるようになったのは、請求する“権利”です。このため、『私はこんなに介護に貢献してきました』と遺族に権利を主張する必要があります。自分から言いづらいですよね……。さらに、法律が認めるようになったのは請求権でしかなく、支払いまでは保証していません」(同)
また「遺産をもらうほど介護してきた」という事実の認定がかなり難しいという。
介護してきた女性から、特別寄与制度を前提にお金をもらう権利を主張されたら、遺族は真摯に向き合う義務が生じる。そこで揉めると(たいてい揉める)、家庭裁判所で女性と遺族で協議して、介護による特別寄与分、つまり介護した間の“賃金”のような形で金額を決めることになるが、これが難しい。
「法定相続人である兄弟姉妹間でこの種のトラブルになって、『お姉ちゃんは何も介護しなかった。私はこんなに介護してきたから、お母さんの遺産を多くちょうだい』などの主張がすっきりと認められたケースを見たことがありません。かといって身内相手の裁判はかなり面倒なので、結局は『私のほうに多く』という最初の主張を諦めるケースが本当に多いんです。れっきとした法定相続人同士でも大変なのに、その配偶者など、相続の権利がない人に請求権が与えられても……」(同)
つまり介護負担に見合った支払いが実行されるかは危ういということだ。この特別寄与制度は前例がないため不確定な部分は多いが、おそらく介護に充てた時間と薬代やおむつ代などの実費を基に特別寄与分が計算されることになる。
時給は都道府県ごとの最低賃金分以上が目安になりそうだという。2018年の最低賃金は874円(全国加重平均額/厚生労働省)と意外に安い。介護に費やした時間とお金は自分で証明せねばならず、日々の記録が必要になる。
「介護日誌を付けると良いでしょう。介護した日付と時間、どんな介護をして、どれだけ費用がかかったかを記入するのです。介護のために購入した物品の領収書もしっかり保存をしておきましょう」(同)
特別寄与分を認めるのは法定相続人なので、日頃からのこまめな連絡も大切だ。
「遠方に住んでいる親族には、義理の親を介護していることを電話のついでなどを利用して、いやらしくならない程度に伝えておくことが大事です」(同)
(ジャーナリスト・大場宏明、編集部・中島晶子)
※AERA 2019年1月28日号より抜粋
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