「感情移入など、今季で一番の演技はできたかなと思います。久しぶりに大勢の前で演技をして、『今までこういう中で演技してきたんだな』と、改めて応援してもらう嬉しさを噛みしめ、感謝でいっぱいでした」

 2日後のフリー。6分間練習の最後に、4回転トウループを降りる。待望の4回転の成功に、ファンから歓声が起きた。

 本番は、4回転はタイミングが合わずに3回転になってしまったが、逃げずに挑戦したことが大きな一歩だった。

「4回転はこの高い緊張感でやれるほどには、練習が足りていませんでした。ショート2位になった欲とか緊張感に打ち勝つだけの力量がなかったですね」

 フリーは後半にミスが重なりながらも151.10点で、若手の追随を許さず銀メダル。

「こんなオジサンが頑張ってるんだから自分も頑張らないと、とか、体力がキツくてもしんどいって言えないとか、若手に影響は与えられたかな」

 6年ぶりとなる全日本の表彰台に、笑顔がこぼれる。世界選手権は選考の資格を満たしていたが、「辞退」を申し出た。

「世界と戦う覚悟が持ちきれなかったというところが大きな理由です。それに、いま日本を引っ張っていこうとする若手が、世界選手権という一番プレッシャーがかかる舞台を経験することの必要性が大きいと思いました。若手がどんどん育って、いずれは羽生(結弦)君や宇野君を抜かしていってほしい気持ちが、自分が活躍したい気持ちと同じくらいあるんです」

 勇気と優しさのある決断だった。もちろん、これで高橋を見られなくなるわけではない。来季続行の可能性を強調した。

「全日本は、仲間と共に力を出し尽くす居心地がいい試合。できれば長くこの場所に留まりたい。来季こそ、現役を続けていたら、世界選手権も狙うかも」

 3月の世界選手権の代表は、宇野、田中刑事、羽生の3人に決まった。羽生は11月に右足首を負傷しリハビリ治療中だが、治療が間に合うと見込んでの選出。層の厚い日本勢が、五輪翌年の世界タイトルも狙いにいく。(ライター・野口美恵)

AERA 2019年1月14日号より抜粋