宇野昌磨は表彰式の時、痛みを抑えるため運動靴で1位の台に登壇。2位の高橋、3位の田中刑事と同じ背の高さになると、背比べの真似をしてみせた (c)朝日新聞社
宇野昌磨は表彰式の時、痛みを抑えるため運動靴で1位の台に登壇。2位の高橋、3位の田中刑事と同じ背の高さになると、背比べの真似をしてみせた (c)朝日新聞社
フリーに向けて高橋大輔はこう気持ちを語っていた。「やっぱり高橋大輔っていいなって見てもらえたら、改めて自信につながると思います」 (c)朝日新聞社
フリーに向けて高橋大輔はこう気持ちを語っていた。「やっぱり高橋大輔っていいなって見てもらえたら、改めて自信につながると思います」 (c)朝日新聞社

 フィギュアスケート日本一を決める全日本選手権。男子は直前に右足首を捻挫した宇野昌磨が気迫の演技で優勝した。2位には今シーズン現役復帰した32歳の高橋大輔。リンクの外でもそれぞれに戦った。

【写真】5年ぶりに全日本選手権の舞台に立ったのはこの選手

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 予想外の試練に立ち向かうことになったのは宇野昌磨(21)だ。昨年12月22日、全日本選手権のショートプログラムが行われる朝、公式練習のウォーミングアップ中。右足首を捻ったのだ。

「ものすごく痛い。どうしよう。でも、少しでも弱い自分をみせたら崩れてしまう。言い訳はしたくない」

 関係者以外にはケガを隠したままショートに強行出場。6分間練習ではトリプルアクセルや4回転をいっさい跳ばなかった。

「どんどん自分が追い込まれていくのを感じましたが、それが逆に強い自分を出すきっかけになっていきました。『もうやるしかない』というほうに気持ちが向いていきました」

 滑走順は、第4グループの1番目。すぐに名前が呼ばれた。

「滑走順に助けられました。6分で何もできてなくて普通なら自分で気持ちを切り替えようとするはずが、名前をコールされてスイッチが入りました」

 演技の冒頭で、キレの良い4回転フリップ、4回転トウループを決める。すべてのジャンプを降り、スピンもステップも気迫のみなぎる演技をみせた。

「弱い自分が全部なくなって、強い自分だけがいました。自分に打ち勝った演技でした」

 演技を終えてもすぐに緊張感がほどけない。鬼気迫る表情のまま、観客に挨拶をした。

「『嬉しい』ではなく『やってやったぞ』という思いだったので、笑顔ではなく強い気持ちが表情に出ました」

 得点は102.06点で、ショートで唯一の100点超えでの首位発進だった。演技後、ケガについて質問されたが、

「言い訳したくないので、僕の口からはフリーが終わるまで何も言いたくありません」

 インタビュー中も表情が緩むことはなかった。

 翌朝、公式練習を休んで病院に行き、強度の捻挫との診断を受けた。痛みは増し、歩くことさえできない状態。関係者は棄権を勧めたが、宇野は言った。

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