「真面目に授業に出るのは野暮だという風潮もあって、アルバイトばかり。そっちの方で色々学んだ。新宿駅近くのレコードショップで店員をしていました」
ある日、「地味で小柄な、化粧っ気のない、ごく普通の女の子」が店にやってきた。「私のレコード、売れていますでしょうか?」と聞く。はて……。店長がそっと、この人は藤圭子さんと教えてくれた。「新宿の女」でデビュー、ハスキーヴォイスで時代の顔となった彼女は、人気が出た後も、レコードの売れ行きを気にしていた。「今でも思うけど、偉いよね」と春樹さんは回想する。藤圭子はのちに宇多田ヒカルの母となった人だ。
東京で初めてジャズライブを聴きに行ったのが紀伊國屋書店裏のピットイン。「渡辺貞夫カルテット。格好よかった。当時は新宿が一番トレンディー、尖(とが)っていた。新宿駅から歌舞伎町あたりかな。ヒッピー文化もあって、風月堂も花園神社も……」
そんな青春を過ごした春樹さんにとって、ラジオで語るクリスマスはどんなものだろう。
先日、選曲リストが届いた。タイトルは「村上式クリスマス・ソング」。僕たちの希望に応え、すべてがクリスマスソング。スタッフの歓声が上がった。春樹さんからリスナーにこんなメッセージも同封されていた。
この季節になると、明けても暮れてもクリスマスソング……疲れちゃいますよね。でもそういうときこそ、あまり月並みとはいえない、クールなクリスマスソングをしっかりまとめて聴こうではありませんか。うちにある、僕の気に入ったクリスマスソングを、ここでまとめて「冬の虫干し」します。どうかご期待ください。
収録日に春樹さんと久しぶりに会った。初めてお会いしたときは互いにTシャツ姿だったが、ロンTとジャケット、季節は巡り晩秋の装いになっていた。
「こうしてみると、クリスマスソングって、結構あるもんだね」
その一言にじわーっときた。リスナーへの素敵なプレゼントになるぞ。僕の心にシャンシャンシャンと鈴が鳴った。(ラジオプロデューサー・作家・延江浩)
※AERA 2018年12月17日号より抜粋
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