青山学院大学講師でコンサルタントの山本直人さんは、かつては博報堂でクリエイティブの現場にいた。当時、企画会議でいち早く取り入れられたころから、ポストイットには接してきた。現在自ら行う研修やワークショップの中で使うこともあるが、その用途にはかなり気をつけているという。

 いわく、ポストイットを利用して行うのは、「分析」まで。「アイデア出し」には使わない。

「漏れがないかどうか確認し、客観的に見られる点でポストイットというツールにもちろんメリットはあります。でもその先のアイデア出しをポストイットで行おうとすると、副作用のほうが強い」

 それは、アイデアの責任の所在が曖昧になるからだ。ポストイットを使うと、匿名のアイデアがつぎはぎされ、アウトプットは玉虫色になる。つまりアイデアから“意思”が欠落すると山本さんは指摘する。

「2000年頃からフラットという言葉がキーワードとなり、合議型のワークショップがもてはやされるようになりました。全員が参加することで民主的な雰囲気があるし、“やった感じ”が出るから参加者の満足度も高いんです。でも、みんなが納得するものに落ち着いたアイデアは往々にして、1人がとことん考え抜いたアイデアより弱い」

 最後に念のため、ポストイットを使ってはいけないと言っているわけではない。多大なメリットがあることは間違いないし、もはやポストイットのない生活など考えられない。だが、知らず知らずのうちにツールの罠に、ハマってはいないか。ペリッと剥がす前に、一瞬手を止めてみてもいいのかもしれない。(編集部・高橋有紀)

AERA 2018年12月17号より抜粋

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