「試合では、気持ちをコントロールするのが難しい。ならば公式練習で少しでも体を疲れさせて、回りすぎを抑制するという方法もあるかもしれない。でも、やっぱり自分の回りすぎというものに正面から向き合って、どうやってコントロールしたらいいのか試合で確かめたい」
そう決意して迎えたフリー。2本ある4回転トウループは、前半は成功、後半はステップアウトとなった。SPと合わせて3度跳んだことで、感覚の差をつかんだ。
「SPは『どうしたらいいか分からないから思い切り行って』転倒した。フリーの一つ目は、4回転サルコウ、4回転フリップ、そして4回転トウループというリズムで練習通り跳べた。二つ目は演技後半で、ひと呼吸置いて『いつもの練習を再現しよう』と意識して跳んで、少し回りすぎました」
試合の興奮や緊張感のなかでしか経験できない、わずかな感覚の差をつかんだことこそが、大きな収穫だった。
「プレッシャーとか緊張を、数年前までは『気にしないように』と考えていました。でも緊張するというのは現役の時だけの特別な経験なので味わっておきたいと思っています。緊張のなかでどうするかを考えていきたい。そういった意味で、緊張のなかで自分を信じることができたのは、今回のフリーが初めてでした」
そう言って満足そうに笑う。宇野らしい考え方で、とことん自分と向き合っていくつもりだ。
次はGPファイナル。順当にいけば、羽生結弦(23)やネイサン・チェン(19)など世界のトップスケーターが出場する。羽生とは平昌五輪以来の直接対決となるだろう。世界の最高峰の舞台で、どんな進化を見せるのか。(ライター・野口美恵)
※AERA 2018年11月26日号