フィギュアスケート男子の羽生結弦が、今季世界最高得点でGPシリーズ初戦優勝を飾った。五輪連覇の王者は、史上初となる大技も決め、世界を再びあっと言わせた。
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2位との差は、約40点。次元の違う圧倒的な実力を見せつけて、羽生結弦(23)はリンクを支配した。
グランプリ(GP)シリーズ・フィンランド大会。自身にとってはGPシリーズ今季初戦だったが、ショートプログラム(SP)、フリーとも今季世界最高点をたたき出し、合計297.12点をマークした。
「やっぱり、勝たなきゃ自分じゃない」
試合後、負けず嫌いの性格をそのまま言葉に乗せて、優勝をかみしめた。
この一戦の羽生を語るには、開幕前を振り返っておく必要がある。
「『結果を取らなくては』っていうプレッシャーがすごくあったのが、今は外れていて。(今後は)自分のために滑ってもいいのかな」
2月の平昌五輪で、連覇を達成。重圧と得点のしがらみから解放された心境を口にしたのは、新シーズンを目前にした8月のことだった。
「自分らしく」に力点を置く今季。だからこそ、プログラムの曲には、憧れのスケーターが使っていた曲を選んだ。SPは元全米王者ジョニー・ウィアーの「秋によせて」。フリーは、ロシアのエフゲニー・プルシェンコの代表プログラム「ニジンスキーに捧ぐ」のアレンジ版を演じる。いずれも小学生のころから憧れを抱いてきた伝説的な選手だ。
ただ、9月下旬、カナダで挑んだ今季初戦オータム・クラシックで感じた悔しさが転機になった。
合計263.65点で優勝はしたが、内容は低調なものに。「めちゃくちゃ悔しい」と漏らした通り、例えばSPの足を替えてのシットスピンは規定要素を満たせず、無得点に終わった。
「やっぱり勝たなきゃ意味がない」
不満の残る演技が、王者のプライドを刺激した。
「五輪後、ある意味でちょっと抜けていた気持ちの部分が、また自分の中にともった」
そこから約1カ月。羽生は攻めのプログラムを携え、フィンランドに乗り込んできた。
カギは、ジャンプにあった。まずは11月3日にあったSPだ。ジャンプ要素は三つ。最後の一つを演技後半に跳べば、基礎点は1.1倍になる。ところが、オータム・クラシックでは全てを前半に跳んでいた。
「曲調に合わせて前半にジャンプを跳んで、その後、盛り上がるところでスピンとステップをやりたい」
得点よりも流れを優先させる。そんな狙いからだった。