隊員ら10人を乗せて消息を絶ったヘリコプターと同型のUH60JAヘリ(陸上自衛隊ホームページから)
隊員ら10人を乗せて消息を絶ったヘリコプターと同型のUH60JAヘリ(陸上自衛隊ホームページから)

 では、妨害電波などを発する電子戦兵器でヘリの計器を攻撃した可能性はどうだろうか。

「ヘリが離陸したのは空自の宮古島分屯基地です。ここにはレーダー部隊が南西空域を常時、警戒監視しています。その目と鼻の先で電波兵器を使う、というのはちょっとあり得ないことだと思います」

 このように消去法で考えると、ヘリが攻撃によって墜落した可能性は限りなくゼロにちかいという。

師団長がこのヘリに乗った理由

 そもそも、なぜ撃墜説がささやかれたかというと、当時、中国軍の動きが活発化していたこともあるが、今回墜落したヘリ「UH-60JA」の信頼性は非常に高く、そう簡単には墜落しない機体だからだ。

 UH-60JAは米国で開発、製造されたH-60の派生型で、三菱重工業がライセンス生産した。H-60系のヘリはこれまでに5000機以上が製造され、世界中で使用されている。

「消防や警察のヘリが飛べないような悪天候下でも活動できる機動性とパワー、信頼性を兼ね備えた機体です。米軍は極地から砂漠まで、あらゆる場所で飛ばしています」

 米陸軍によると、2016年度から20年度までの5年間に160件のH-60系ヘリの事故が報告されている。そのうち、18件は「クラスA」と呼ばれる重大事故だった。クラスAの事故率は10万飛行時間あたり0.87件で、米陸軍のヘリのなかではやや低い程度だ。

「ただ、それは仕方のないことだと思います。UH-60は特殊部隊も使っている機体で、高度20メートルを高速飛行するとか、相当危険な任務や訓練が行われていますから」

 自衛隊がH-60系ヘリの導入を開始したのは1980年代からで、まず海自と空自が採用した。

「陸自は95年度からUH-60JAの調達を開始し、2013年度予算までに40機を導入しました。その配備先の一つが第8師団隷下の第8飛行隊です」

 師団とは、独立してさまざまな任務を遂行する「作戦基本部隊」である。

「師団長は作戦基本部隊のトップなので、自分の師団のヘリを使うことが基本です。なので、今回は第8飛行隊のUH-60JAに搭乗しました。事故当日はそれ以外の選択肢はなかったようです」

防衛省関係者の話への疑問

 先ほどの米陸軍の事故報告書によると、H-60系ヘリのクラスAの事故の原因は、人為的ミスが83%、故障が17%だった。

「国内では18年に空自のUH-60Jが浜松基地沖で墜落しています。原因は操縦士が機体の高度や姿勢を把握できなくなる『空間識失調』に陥ったことでした。当時は夜間で雲も厚く、機体が急降下していることに気づけなかった。ただ、今回の事故が起こったのは昼間で視界も良好でした。管制塔と最後の交信からわずか1、2分の間に操縦士と副操縦士が2人とも空間識失調に陥った可能性はほぼないと思います」

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